エミ長編(後編)

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エミ長編(後編)
部屋では弟が宿題をしていた。
居間には母親が居る、一人になれる所がない。
しばらく玄関で蹲っていた。
(あれからどうなっただろうか・連絡を取れるだろうか・これからどうなるのか)
心が張り裂けそうなほど不安になった。
家族は、俺の異常さに気が付いても、ソッとしておいてくれた。
とても勉強どころではない。この問題が俺の心に大きくのしかかってきた。
夜9時頃、ドアチャイムが鳴った。
「夜分すみません、Sと申しますけれど、KM君いらっしゃいますか?」
男の声だ。

俺は、不安を抱えたまま玄関に向かった。
玄関を出ると、そこにエミの兄が立っていた。
兄「少し良いかな?」
俺「ハッハイ、着替えてきます」
と言って、着替えに戻った。
帰宅していた俺の父親は「あんまり遅くなるなよ」と一言。
俺の表情から、何か有る、と感じたようだ。
表へ出ると、兄は黙って歩き出した。
後に付いていくと、近所の駐車場の中へ入っていった。
兄「話は聞いた、これはけじめだ」
と言い、パンチを俺の顔にヒットさせた。

後ろに尻餅をついて倒れる俺。
咄嗟の事に立ちあがれない。
兄は俺に手を出して立ちあがらせ、
兄「俺の気持ちはこれで終わりだ。俺も男だから君の気持ちはわかる。妹を大事にし

てくれ」
俺は返事も出来ないで俯くだけだった。
兄は、それだけ言うと自分の家のほうに歩いていった。
俺が家へ戻ると、俺の顔を見た母親が心配した。
父親は「終わったのか?」とだけ。
気が付いていても、関わられたくない俺の気持ちを察してくれた。

翌々日、エミが訪ねてきた。
俺の家じゃ居場所が無いので、近くのファミリーレストランへ行く。
エミは「ごめんなさい」と謝った。
「俺のことは気にするな」とエミを慰め、話を聴いた。
あれから父親とは口を聴いていない、父親が母を怒り、兄に相談した事など。
父親が「不良」と決め付けた俺を、母親が庇ってくれたらしい。
エミは、俺の顔の腫れに気が付いた。
この件と関連していることは明白だ。
エミ「お父さんが行ったの?」
俺「いや、違う。何でも無い」
エミ「お兄ちゃん?」
俺は「自転車で転んでぶつけたのさ」と誤魔化すしかなかった。

これからどうするか、二人とも答えが見つからない。
エミは、外出も思うように行かなくなる。夏休みだというのに。
俺はエミの件で、勉強のことは完全に跳んでいた。
何も手につかないまま、夏休みは過ぎていった。
そんな有る日、エミから電話があった。
エミ「今から家へ来ない?」
俺は返事に困った。前と同じようにはなりたくない。
今度何か有ったら、取り返しがつかなくなることを恐れた。
エミは「お母さんが会いたいんだって」と告げた。
俺は「判った、行く」と返事をして、エミの家へ向かった。
家が近づくと、だんだん緊張してきた。

玄関でチャイムを押す。
エミが迎え入れてくれた。
リビングでは母親が待っていて、「どうぞ」とソファに俺を座らせる。
母親は今度の一件を、早すぎると思いながらも、理解してくれていた。
エミの落ち込み様と、俺の受験を心配して、今日呼んだのだ。
「付き合うな、とは言わない。K君は今が大事な時だから、来年までは我慢しなさい

。それまで、エミにも我慢させる」と言った。
俺が、浪人したり私立へ行くことが難しいことも、エミから聞いているようだ。
エミは、二人のことを全て母親には話したようだ。
驚いたのは「これからは家へいらっしゃい。少しは二人だけにしてあげるから」
と言ったことだった。

エミは下を向いたままだ。
俺は返事のしようも無かった。いや、とも、はい、とも言えない。
ただ「今、俺の頭の中はエミちゃんで一杯で、先日の件の重圧で勉強が手につかない

」と答えた。
俺は、母親の好意を感じて、少し心が和らいだ。
さすがに、その日に二人だけになることは躊躇われたので、そのままエミの家を後に

した。
エミは途中まで送ってきて、「お母さんに相談して良かった」と言った。
俺は、この事がまた父親に知られはしないかと、心配になった。
2学期になり、模試を受ける。
勉強に集中できなくなり、結果は散々。
エミとのことが頭から離れないからだ。

受験のために、エミのことを忘れる勇気は無かった。
ある日、学校の帰りにエミの家に行く。
母親は、俺の受験のことを心配して、
「K君のために言うけど、将来を考えたら、この半年間はとても重要。あとで取り返

せるから、春までエミのことは忘れなさい」と言った。
そして、10分だけエミの部屋に行かせてくれた。
俺が抱きつこうとすると、エミは母親の言葉を真剣に考えて、
「今日から半年は我慢しよう。電話はする。春に笑顔で会いたいから」と言った。
父親は、俺の家との家柄の違いを母親に言ったそうだ。
「国立大学に入れば、父も納得する。反対されていると、私は辛い」とエミは言った


俺は、どうして良いか判らなくなるほど動揺した。
学校には入りたい、でもエミのことが頭から離れない。
反対されたから余計に熱くなっていたのだろう。

エミの体を抱きしめること無く、エミの部屋を後にした。
それから、机に向かう時間は長くなったが、集中力が続かないのは明らかだった。
何度も会いに行こうと思った。
でも、春まで我慢、と自分に言い聞かせ、耐えるしかなかった。
志望校を1ランク下げた。
進路指導の教師は、2ランク下を指示した。現状では無理だと。
暮れになり、なかば自棄気味にエミを呼び出した。
エミは、驚きながらも待ち合わせ場所に来てくれた。
俺は、今の気持ちを正直に伝えた。
「学力のレベルが落ちた。希望する学校には入れそうも無い。とにかく集中力が無い

」と。
エミは思い切ったように「今から行こう」と、3駅ほど先に有る歓楽街へ俺を誘った



駅名を言われただけで、俺は直感した。何のためにかを。
すっかり暗くなった夜の町を、目的の場所へ急ぐ。
エミの顔は、真剣だった。俺の表情から、このままでは良くないと。
中へ入り、無言で抱きついた。
俺は泣いていた。嬉しさと、惨めさと一緒になって泣いた。
エミも泣いていた。「ごめんね、ごめんね…」と言いながら。
シャワーを浴びると、「好きにしていい」とエミは言った。
俺はエミの胸に抱きつくと、夢中でその先端にキスをした。
急いでゴムを付け、エミの体に入る。
自分のことだけしか考えないまま、直ぐに欲望をはき出した。
エミの上に重なる。
エミは優しく俺を包んでくれた。

後始末をし、エミの隣に横になる。
ここまで、ほとんど会話が無い。
エミは「ごめんね」と言いながら、まだ泣いている。
俺はますます落ち込んだ。何一つ出来ない自分が情けなかった。
エミは、俺の分身に手を伸ばしてきた。
触ったり、握ったりしている。
大きくなると、「もう一回しよう」と俺を誘った。
今度はエミも満足させることが出来た。
エミは「もう見たくない、と思えるまで、好きにしていい」と言った。
俺も思い残すことが無いよう、好きにした。
限られた時間を気にしながら、思う存分堪能した。

家に帰るとき、エミの帰宅時間が心配になった。
「友達の家に行く」と家を出てから、連絡をいれていない。
9時になっていた。父親も帰っているだろう。
エミは「心配しなくていいよ、私のことは自分でするから」と、家に入っていった。
俺はその晩、集中できた。ペースが上がった。
翌日からも、それが続いた。
集中できなくなると、先日を思い出し、自分で処理した。
学校から「私立も受けろ」と薦められた。
家庭の事情を考えると、受かっても入学は難しいので悩んだ。
もし、国立に落ちて私立に受かったら…。
ダメ元で私立を2校受けることにした。
国立も本来の志望校からは1ランク落とした。

結局、国立は落ちた。
父は俺を呼び「済まないが諦めてくれ。でも1年浪人しても良い」と言った。
さほどショックは受けなかった。
国立に落ちた俺が悪い、勉強以外に気を抜いた俺が悪い、と現実を見た。
今の自分のレベルを知るため、私立の入試に集中した。
1校に受かった。
その晩母が「今のMを見ていると、来年受かるとは思えない。Sさんのことを諦めら

れないでしょう。私にも幾らか蓄えが有るの。もし、○大に行きたいのだったら、お

父さんに言って、行かせてもらうように話はする。○大は良い学校だと思う」と言っ

た。
俺は返事が出来なかった。

翌日エミの家に行った。
エミの母親は、俺の入試の結果を知っていた。「○大に行くの?」と。
俺は「まだ決めていません。来年受験したい気持ちも有るけど、受かるかどうか…」

と返事した。
エミはハッキリと言わないが、このまま○大に行くことを期待しているようだ。
俺は、去年と同じ苦悩(勉強とエミとの事)を、克服できるか悩んだ。
何事にも目をつぶり、真剣に勉強しないと目標を達成できないことは解っている。
でも今の俺には、エミ抜きで1年がんばれる自信は無かった。
結局、○大に行く事にした。
その晩父は「わかった」と言い、弟に「お前は絶対無理だからな」と、険しい顔で言

った。

翌日エミにそのことを伝えると、家に来て、と言った。
エミの母親は「話がある」と二人を座らせた。
母は「大切な話だから、真面目に聞いてほしい」と前置きし、
「もう二人がそうなった事は知っている。大人として、また親として注意してもらい

たいことが有る。…それは妊娠だけはさせないで欲しいのと、嘘をつかないこと」と

言った。
二人はドギマギし「はい」と返事をした。
母親が「二人を応援する」と言ったことが嬉しかった。
しかし、いくら二人の関係が周知の事実としても、勝手な行動は許されない。
エミが、友達と旅行に行く、と言ってもチェックされた。
父親が、俺との付き合いを許していないからだ。

エミは、何とか取り繕うとしたが、「不良」と決め付けるだけ。
夜、電話をすることも難しい。
こうして、気を使いながらの付き合いが、新たにスタートした。
俺は、家の負担を軽くするためバイトに精を出した。
ある時エミが「兄が、良いバイトが有る、と言っている。紹介しようか?」と言った


俺はその話に乗った。
行ってみると、それはエミの父親がいる会社だった。
エミの兄と一緒に行き、会社に着くと緊張した。
兄は、いきなり荒治療を試みたようだ。
輸入音響機材の販売会社で、トラックの積み下ろしと、社内雑務だ。

会社での父親は、俺に気を使っている。
ある日の帰りに、一緒に帰ることになった。
結構きつい仕事で、疲れ切っているところに、緊張が加わる。
俺は、黙って後ろにいるだけだった。
兄が、間を取り持つように、話題を選んだ。
地元の駅に着くと「家に寄って、一緒に夕飯を食べていけ」と、父親は言った。
俺はドキドキしながら、「ハイ…」と虚ろに返事をした。
家に入ると、俺の分も夕飯が用意されていた。
初めからその様に仕組まれていたみたいに。
「シャワーを浴びて来い」と言われ、バスへ向かう。
出ると、新しい下着が用意されていた。
全て試されているようで、緊張が解けない。

食事中は質問責めだ。
「将来、何をしたいか?」「バイトはきつくないか?」「父親の仕事は?」など。
帰りに門の前でエミが「ごめんなさい、父が、付き合うんだったら自分が会いたい、

と言うものだから」と言った。
あの現場を見られて、「不良」と決め付けられた事を思えば、仕方が無かった。
翌日から、バイト先での父親はもっと打ち解けてきた。
一緒の昼食時、父親からエミのことを話題に出してきた。
今までは一度も無かったことだ
ある日、父親が「エミのことを宜しく頼む。我が侭で世間知らずだが、優しい子だ。

仲良くして欲しい」と言った。
俺は、エミとの付き合いを許されたことに喜んだ。
その日、エミに伝えると、エミも泣きながら喜んだ。


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