好きな人にうんこさんを見られた

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好きな人にうんこさんを見られた
会社でうんこさんを出そうとしたら、女子トイレに“使用禁止”の貼り紙がしてあった。

『一時間くらい使用しないで下さい』とある。

いつから一時間だよ!とツッコミつつ、うんこさんを我慢しない主義の私は困ってしまった。

仕方なく男子トイレを拝借。

男性社員が出払ってるのは知ってたから、突然男性が入ってくることもなかろうと。

ところがこれが大間違い。

貼り紙してなかったけど、実は男子トイレも使用禁止だったんだ。

水が出ない!

一応、水が出るのを最初に確認したんだけどそれは、タンクに貯まってた最後の水だった。

タンクの陰に止水栓があるのに気付かないくらい、当時の私は水回りに関して無知だった。

いつも通りの快便を見下ろしながら、青ざめる私。

当時24歳の私の自慢は、健康な胃腸と美肌だった。

便秘にならないコツは、食生活はもちろんだけど、便意を我慢しないこと。

うんこさんが旅立ちをせがんで来たら、なるべくすぐに見送ってあげる。

引き止める癖をつけてしまうと、うんこさんは機嫌を損ねて、引き籠るようになる。

それが『便秘』というものです。

ほぼ毎日快便だった私は、よく食べる割には太ることもなかった。

便秘由来の吹き出物に悩まされることもなかったし、年下の女の子にもお肌を羨ましがられるほどだった。

自分を美人だとは思わないし、おっぱいもないけど、美肌と童顔とスタイルのおかげで男性社員にちやほやされたりして、いい気になってた。

その日までは。

結局うんこさんを置き去りにして、冷や汗をかきながら仕事に戻った私。

仕事の合間にバケツで流しに行けるかどうか、などと考えていた。

そして、出払ってると思ってた男性社員の1人が、実は会社の敷地内にいたことを知る。

トイレの水が出ないのは、その男性社員が、外で排水パイプの具合を直してたからだった。

ときどき下水道までの流れが悪くなるらしくて、水を止めて、外から調整したりするらしい。

その時、事務所内にいたのは、事務の女性数人。

「トイレ直ったから、栓を元に戻しますねー」

そう言って戻ってきた男性はよりによって、私が密かに好意を寄せている年下のA君だった。

「お疲れ様、ありがとう」などと他の女性全員が言ってるのを、私は泣きそうな顔で聞いてた。

A君が外で作業してるのを、私だけが知らなかったのは、何かの行き違いか、陰謀か。

トイレに行って、栓を開けてきたらしいA君の表情は、何とも複雑だった。

そして・・・。

「僕が外にいる間、誰か(男性社員)戻って来てました?」

「誰も来てないよ」と、女性の1人が答えた。

これで、A君がうんこさんを目撃し、しかも犯人が男性でないことを確信したのがわかった。

アレが、ここにいる女性の内の誰かのものであると、彼は考えている。

そして、彼が戻ってきた後、彼に声を掛けていないのは、挙動不審の私だけ。

彼が犯人を特定するのに時間はかからなかっただろう。

好きな人にうんこさんを見られた。

黒々と和式便器に横たわる、香ばしい置き土産。

悲しい、悔しい、そして最高に恥ずかしい。

快便であることは私の自慢だけど、うんこさんそのものを自慢したいわけじゃない。

でも・・・。

とにかく恥ずかしかったけど、水は流れなくても時間は流れる。

時が経つにつれて、“大したことじゃないな”と思えてきた。

A君が私を責めたり、他の人に告げ口したりすることもなかったし。

彼はこの事件のことを誰にも、私にも言わなかった。

それを彼の優しさと言えるかどうかはわからない。

けど秘密にしてくれてることに対して、感謝の気持ちがいっぱいで、ますます好きになった。

うんこさんを見られたことは、大して気にならなくなっていた。

そのはずだった。

でも私の無意識の部分で、何か変化があったみたい。

私はA君とまともに話がし難くなり、体調も悪くなってきた。

無意識の内に排便が怖くなったのか、毎日あった便意が、毎日じゃなくなった。

少しずつ、便秘女の仲間入りが近づいてるのを自覚しながら、どうしたらいいのかわからない。

体重は10kg近く増え、お肌も荒れるようになり、仕事でもイライラすることが多くなった。

それが理由、というわけじゃないけど、家庭の事情もあって、私は仕事を辞めた。

送別会で、お酒の力もあってか、久しぶりにA君と楽しく話ができた。

本心から私の退職を惜しんでくれているようで、嬉しくて少し泣いてしまった。

でも、好きって気持ちを伝えることはできなかった。

うんこさん事件が恥ずかしかったこと、容姿に自信がなくなってたこともあって。

そして私は実家に戻り、しばらくアルバイトを経て、再就職。

その頃には何とか快便体質に戻り、体重も体調も元に戻ってきてた。

取引先の人と付き合うようになって、結婚、妊娠。

幸せの絶頂にいた。

夫の立会いのもと、出産したんだけど。

夫の目の前で、赤ちゃんよりも先に、うんこさんを出産してしまった。

恥ずかしいのと痛いのと、初めての出産で不安なのとで、泣き喚いた。

「出産時に便が漏れるのはよくあること、気にしないで」と先生が言ってくれたけど。

正直あまり覚えてないんだけど、出てた出てた!と、あとで夫に言われ、恥ずかしかった。

そして・・・。

「君のうんこ見たのは2回目だけど、出る瞬間は初めてだね」

あの日、私の置き去りうんこさんを目撃したことを、夫が初めて明かした。

そうです、A君と結婚したんです。

あの時、私のものだと察したのは流したあとだったので、ちょっと後悔した、とも言ってた。

当時から私のことを気にしてたらしくて。

気になる人のうんこさんだって知ってたら、もっとじっくり観察したのに、って。

そういう趣味か!と思って引きかけたら、慌てて「冗談だよ!」って笑ってた。

たぶんほんとに冗談なんだろう。

うん、冗談に違いない。

さて、2人目を出産したとき、夫の立会いはなかったけど、私はやっぱり脱糞した。

事前に浣腸したんだけど、少し出た。

3人目の予定はないけど、また脱糞しそうなので、立会いは拒否してある。

日常生活でのうんこさんは、健康診断の意味で、ときどきお互いにチェックしてる。

夫のは少々甘みがあるので、体調が心配。

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