消防士・倉井

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消防士・倉井
まず俺のスペックからさらしとくわ。名前は倉田、24歳男。フツメンでプチマッチョの彼女いない歴5年だ。職業は田舎の消防士。
消防士になりたい、って思ったのは高校一年のときだった。高校の部室棟で小火がでて、消防車がでる騒ぎになったんだ。うちの部室(おれは男バス)のとなりの女バスの部屋からすげえ煙が出ててさ、中から三人くらいの悲鳴が聞こえんの。
煙はすごかったけど別に火柱がたってるわけでもなかった。でも俺含め周囲にいた人間はビビって助けに入れなかったんだよ。
そこへ消防車がやってきた。現場を見るなり、助手席に乗っていたオッサン消防士がだるそうにおりてきて、部室棟の隅にあった消火器(誰も気づいてなかった)をひょいとつまんで煙の中に入っていき、中にいた女の子たちを外に放り出すと、手際よく火元を絶ってしまった。
事後処理がすんで消防車が帰っていくまで、オッサンの表情はずっとめんどくさそうだった。「こんな小火くらいで手間かけさせんなよな」とでも言いたげだった。でもそんな不遜な態度が少しも気にならないくらい、彼の動きは素早くて無駄がなかった。やや遅めの思春期まっさかりだった俺はオッサンに惚れたね。惚れこんだ。ああ俺消防士になろう。ああいうオッサンみたいになりてえわ。それがきっかけね。
でも現実は厳しかった。田舎だからなのかわからないが、大火事なんてほとんどない。俺が高校のとき経験したような小火さわぎがぽつぽつあるくらい。キツイ訓練をしてせっかく就いた職業なのに、つまらない仕事しかまわってこない(まあ、大火事がないのはいいことなんだけどね)。小火を消したくらいじゃ大して感謝もされないし。「人知らずしてうらまず」だっけ?俺は聖人君子じゃないから、そんな日常にくさっていく一方だった。
ただ、ヒマかというとそんなこともない。近所のババアは「こんな田舎だとヒマでいいわねえ、公務員さまだしねえ」なんて嫌味を言ってくるがとんでもない。火が出ようが出まいが署にいないといけないし、夜勤だってある。高校のときから付き合ってた彼女にふられたのも、運悪く記念日のいくつか(彼女の誕生日、クリスマス、付き合いはじめた日)が宿直とかぶっちまったのが遠因だ。以来出会いも何もない(はす向かいの呉服屋が、やたら農家の娘との見合い話を持ってはくるけどね)。彼女いない歴5年というのは、そういう事情からだ。
俺はすっかり人生への希望を失って、しぼんでしまった。大学に行けという両親の説得を無視して、高卒ですぐこの仕事についた。生活や命を守る尊い仕事に…。
ある時鏡を見てびっくりしたね。俺の顔、あの時の消防士のオッサンみたいになってんの。いやいや俺まだ24だぜ?なんでこんなにくたびれてんのよ?
ああ。これが実情なのか。自慢じゃないが諦めるのは得意なほうだ。俺は無駄に永く残された人生を、どうにかこのまま惰性にのって過ごしていく決意をしたんだ。

宿直中は交替で二時間くらいの仮眠をとる。俺は先輩と入れ替わり、殺風景な仮眠室のベッドにもぐりこんだ。昔は枕がかわると眠れないタチだったが、今はもう慣れたもんだ。疲労は最高の睡眠薬だと思う。俺はあっという間に眠りについた。
…が、すぐに俺は叩き起こされた。仮眠室の時計を見ると三十分も経ってない。ついてねえ…。俺は舌打ちをしてから立ち上がると、下の階へするっと降りた。
ちんたら準備に取り掛かろうとすると、上役である笛吹さんが「急げ!」と叫んだ。とりあえず準備を済ませて車に乗り込むと、先輩の近藤さんが現場の状況を教えてくれた。一戸建ての一階居間から出火、一階にいた三人は自力で脱出したが、二階で就寝中の一名が取り残されているらしい。安否は不明、現場まではあと6分。西側に隣接する住宅への延焼が懸念される、とのこと。
現場に到着すると、俺は先に降り、野次馬を除けながら車を誘導した。脇目に見ると、すでに道路から見て正面はすっかり煙につつまれている。はしごから中に入るには家の側面からだ。
笛吹さんの指揮の下消火活動がはじまる。家族が「早く娘を!」とすがりついてくるが、突入するにしてもまだ危険だ。突入経路の確保と延焼の防止を優先し、我々は活動を行った。
火の勢が弱まり、わずかに中の様子が伺えるようになった………階段は無事だ!焼けているのは西側の居間と台所、さらにその奥の夫婦の寝室。東側の和室から進入していけば、取り残された一名の確保は容易なはずだ。
笛吹さんが顎をしゃくった。俺はホースのつけかえをしていた後輩の平井に目配せし、二人で内部へ進入した。
火が弱まっているとはいえ、まだ熱気が防火服の隙間から感じられる。俺は平井に先行して階段を登っていった。大丈夫そうだ…。俺は振り返り、平井について来い、と合図しようとした…
急な爆音によろめく。西側の一階の奥のほうからだ。階段の手すりからそちらを覗くと、急に勢いを取り戻した火柱が天井を焦がしているのが確認できた。
二階の配置からすると…あの直上が寝室だったはず!まずい…!
こういう場合は一旦戻るべきだ。俺は家の内部にいるわけで全体を把握していない。一旦戻って指示を仰がねばならない…。指示を仰がねば…。
俺の頭の中はいたって冷静にマニュアルを思い出していた。足許からギイイイ…といやな音がする。どうすべきかよくわかっているはずの俺の頭とは裏腹に、俺の足は躊躇なく二階へ向かった。
寝室のドアを開ける…と、中には取り残された娘がいた。パニック状態にはなっていない。落ち着いて救助を待っていたのだろう、壁際にじっとしている。まだ床は破られていない。俺は彼女を抱え上げ、部屋を出ようとした。
娘がきょとんとした顔で防火服を覗き込む。俺ははっとした。なんで…気づかなかったんだ。この家は、こいつは…。
取り残されていた娘は、5年前に別れた彼女だった。情けないことに俺は脱力してしまった。落ち着いていたはずの彼女が急に泣き出した。そして頻りに「ごめん、ごめん」と嗚咽交じりに俺に謝り始めた。
俺たちは仕事が原因で別れた。別れるときに言われた言葉は忘れられない。
「なんでそんなださい仕事に!」
同じ大学への進学を拒んだ俺に憤っていた彼女。仕事への情熱を失っていなかった当時の俺。売り言葉に買い言葉で、俺たちの関係はあっというまに冷え切ってしまった。
俺は被っていた防火服のキャップを脱いだ。熱気をはっきりと肌に感じる。彼女のこぼした涙もじんわり熱くなっているだろう。そうだ、ここは俺の、俺の生涯の仕事場だ。
「助けに来たぞ」
俺はただ一言、伝えた。彼女はそれに応える代わりに、俺の腕の中で丸くなった。俺の左胸に、その火照った頬を押し付けて。
だが、大きな安堵とともに、大変な事実が、俺につきつけられた。
背後から急に上がる火の手。襲い掛かる悪魔の吐息。俺は目を見開き、叫んだ。
「エターナル・フォース・ブリザード!!!」
巻き起こる冷たい白銀の嵐が、もえさかる火炎を押さえ込む。
「今しかない!」
俺は廊下に彼女を横たえると、防火服を全部脱ぎ去るのももどかしく、すっかり彼女のパジャマを剥ぎ取るやいなや、ギンギンになったチンポを前戯もなしに突っ込むと、五秒くらいで中に果てた。

目覚めた俺を襲ったのは最も残酷な現実だった。時計はまだ早朝四時。そうだ、俺消防士じゃねーわ。ニートだわwwwwww
やっべえパンツがガビガビwwwwオナ禁マラソンて夢精はセーフかwwww????
あーだりい。とりあえずババアが起きてくる前にパンツ洗濯機にぶっこんで、あらためてもう一回抜いてから寝るか。

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