男女間の修羅場を経験した話を書きますよ

エロい体験談まとめ

エロい体験談速報

男女間の修羅場を経験した話を書きますよ
スペックです。
ボクは、山下ユーサク(仮名)当時は公立高校の一年。

成績は普通、運動神経も普通、外見も普通、つまり特徴がないことが特徴で他人からは「何度会っても顔と名前が一致しない奴」とか言われてました。
当然、先生にも名前を覚えてもらえないわけで、授業中に指名される回数が明らかにボクだけ少なかったような記憶があります。
基本的にヘタレです。

彼女の名前は、山本ミドリ(仮名)同級生です。

長身で活発な子。
ルックスは美しいスポーツ少女系。
今の流行でいうとヤングなでしこといった感じでしょうか。

中学二年の時に彼女が転校してきてから、ずっと同じクラス。
しかも名簿も近いことから席はいつもボクが前、彼女が後ろでした。
だから彼女はボクのことを名前で呼んでくれる数少ない(というか唯一の)女友達でした。

転校初日の第一印象は「大きな子だなぁ」でしたね(笑)
たぶん、当時は彼女の方が背が高かったと思います。
そして次に「カワイイかも」になるわけです。
気のせいか、ちょっと影のある感じはありましたけどね。

理由は覚えてませんが、ちょうどボクの後ろの席が空いていたので彼女の席がそこに決まり、ボクは内心「ラッキー!」とか思ってました。

十分に地の利を活かして、ボクは彼女と親しくなりましたね。

運よく気も合ったので、ボクは彼女とは同性の友達と接するように自然に接することができました。
それは彼女も同じだったと思います。たぶん。

半年もすると幼馴染みたいになり、そのうち彼女からは、普通に恋の相談のようなものも受けるくらいにまでなってましたよ。
この辺は想定外でした。仲良くなり過ぎましたね。友達として。

そんな彼女に「男性の意見が聞きたい」と言われる時は、たいてい恋愛系のハナシでした。

ボクの彼女評は“恋多きわりには臆病で詰めが甘く成就しない乙女”とでもいうのでしょうかね、次々と「あの子がステキ!」とか言うくせに結局は、誰とも付き合ったりできなかったようです。

この話は、高校に入って初めて彼女から「男性の意見が聞きたい」と言われたことから始まる騒動を、思い出しながら書いていきます。

―― 第一部 修羅場 ――

いつものように慌しい朝のホームルーム前でした。

ボクは友人達と昨日のサッカーについて、あーだこーだと批評家よろしくやってました。
ボクは、一応サッカー部所属です。ベンチ外ですけど。

いつもは、そんな話に混じってくるミドリが珍しくひとりで席に座ってました。

様子がおかしいかも?とは思ったんですが、女の子ですからね。
下手に構うと真剣にウザがられたりするんで放置してました。

でも、その日は一日中そんな感じだったんで、終礼後に声をかけてみたんです。

「熱でもある?」
「ない……と思う……かも」

なんとも珍妙な回答をするミドリ。
(なんなんだ、それ?)

彼女の虚ろな視線が、ちょっと気になったものですから数ヶ月ぶりに彼女を誘ってみました。

「今日、部活だろ? 終わったらなんか食べに行こうか」

別に下心があったわけではないですよ。
家が近所で方向が一緒なので、中学の頃は部活終了の時間さえ合えば一緒に帰ることが結構あったんですよ。
高校に入学してからは、初めてでしたけど。

「……わかった。じゃ校門で待ってる」

力なく答える彼女でした。

彼女はバレー部所属です。
身長があるんで中学の頃はエースアタッカーだったし。

自校で試合がある時に何度か応援に行ったけど、体が大きいせいもありなかなか迫力がありました。
スポーツ少女に見合わない綺麗な長い髪も目立ってましたし、それになんというか…… 揺れるんですよね(笑)

彼女も同じように、ボクの試合を応援してくれたこともありました。
ロスタイムにゴールを決めた時には、汗と泥まみれのボクと抱き合って喜んでくれたし。

そんなこんなで周囲からは、完全に二人は付き合ってると思われてたようです。
残念ながら違うんですけど。

だから、彼女は非常に目立つ存在にもかかわらず、寄ってくる男は少なかったようです。
詳しくは知りませんがね。
もしそれがボクのせいだったなら今さらですが謝っておきます。すいません。

ちなみにボクに寄ってくる女性は皆無でしたよ。
それは決して彼女のせいではなかったと思います。ドンマイ!

さて夕暮れの迫った校門。
彼女が壁にもたれかかり、ボクを待ってました。
アンニュイな雰囲気で可憐さが一層引き立ち、なんかこうゾクゾクっとしたことを覚えてます。

「ごめんごめん。顧問の説教が長くてさ」

さっきのゾクゾク感を誤魔化すように言うボク。

「いい……さっき来たとこだから」

もし、これが初対面だったなら、即落ちで一目惚れしてたかもしれません。
どうやらボクは憂いを含む女性の表情に弱いようです(笑)

でも、数年間の彼女との時間がボクと彼女の関係を「友達」に固定してしまっていましたね。

ボクは自転車を押しながら坂を下ります。
彼女はボクの斜め後ろを黙ってついて来ます。

これは誰か好きな男ができたんだろうなと思いましたね。
過去にも似たようなことが何度かありましたから。
嫉妬心とかそういうものは、まったく感じなかったですよ。
同性の友達が誰かに惚れたとか聞いても何も思わないのと同じです。
ボクの中での彼女はそんな感じだったんです。

ファーストフード店に着くと端の方の席を陣取り、ポテトと飲み物だけでじっくり話を聞くことにしました。
ボクはもう答えはわかっていたんですが、とりあえず通過儀礼として尋ねることにします。

「で、どうしたんだ?」

ストローの袋をコネコネしながら、ちょっと拗ねたように俯き加減で視線を合わさず、とんがった口で呟きます。

「……男性の意見が聞きたい……」

(ほらきた)見覚えのある光景です。
毎度のことですが同じ仕草で同じ内容を言うんですよ。コイツは。

とりあえずボクは、いつも同じ反応をするしかありません。
ここで、何か違った反応(どんなだ?)でもすれば、ボク達の関係が変わったりしたんでしょうかね?
その時はそんなことは、考えもしませんでしたけど。

「それで、今度の相手は誰なんよ?」
「……サッカー部のキャプテン」
「え――っ! 早川先輩(仮名)かよ」

まあ驚きましたよ。身近な3年の先輩ですからね。
いや、驚いた理由はそれだけじゃないんですよ。
その先輩には彼女がいたからです。
ありがちなんですが、3年のマネージャーさんがそれです。
ちょっと派手目ですけど、かなり綺麗な人です。モデルみたいです。

ボクは迷いました。その事実を今ここで伝えるべきかどうか……

数秒間の熟考の結果、今日のところは先輩に彼女がいることは伝えないことにしました。
今日はミドリを元気づけるために来たわけですからね。
明日でいいや、とか思ったんですよ。
それに、話を聞いてやれば少しは落ち着くだろうし、それからでも遅くはないと考えたからです。

案の定、先輩のどこがカッコいいかを力説しながらミドリは、どんどん元気になってきました。
ボクとしては他の男のカッコよさなんて聞かされてもあんまり面白くなかったんですけどね。

まあ、先輩は普通にカッコいい人ですし、サッカーもボクなんかよりも随分上手いです。

ただねぇ……女性とのアレコレを自慢げに話すタイプなところがねぇ?
聞く方は楽しいんですよ。ソノ手の話は、こっちも興味津々ですから。
でも、その話を聞いた後では、気まずくなるんですわ。

マネージャーさんを見るともう妄想全開になっちゃって……あんな綺麗な人がそんなコトをするなんて……
ついパンツを押さえてしまいますよ(笑)
ボクは、ひょっとしてこの先いつかミドリと先輩のアレコレを聞くことになるのか?とか考えてちょっと困ったような気になったことを覚えてます。

結局、ミドリには小一時間ほど話につきあいましたね。
もう飲み物の氷が溶けるだけじゃなく、紙コップまでユルユルになった頃にやっと解散となりました。

それからのボクは、結構苦しかったですよ。
ミドリからは先輩のアドレスを教えろとか、今後の試合スケジュールを教えろとか、弁当を作りたいから食べ物の好き嫌いを教えろとか色々と言われましたから。
なんだかスゴーく盛り上がってるんで、つい彼女がいることを言えずにいたんです。
つーか、先輩とマネージャーさんのやり取りを注意して見てりゃふつーは気づくハズなんですけど、コイツは気づかないんだよなぁ。

ひょっとして相当ニブイのか?

そのうち、一度でいいから直接話がしてみたいとか言い出してさ。
仕方がないから段取りをしてやりましたよ。
部活が終わった頃にボクに声をかければ、できるだけ自然に先輩と話ができるようにしてやると。
まあ、やってみたんですけど全然自然じゃないのね、これが。
なんかマネージャーさんに睨まれましたけど、ボク。

その日の帰り、ミドリはテンションが上がってました。
「一歩前進ナリ!」とか言ってましたね。
そういえば、ボクは最近ミドリと一緒に帰ることが多くなりました。

なぜかミドリが校門で待っているせいで流れ的に、そうなってしまうんです。
で、ひとしきり先輩のカッコいいところを聞かされるというわけでして。

あー面白ないぞー(笑)

とかいいつつ、ボクは楽しかったようです。

ところが……

ミドリを先輩に近づけたことが、ボク達をとんでもない方向に進めるきっかけとなってしまったんです。
一週間後くらいだったかな、早川先輩がボクに話しかけてきたんです。

「よう山下! あの子、そう、ミドリちゃんってカワイイよな」
「へ? なんすか急に?」
「昨日の帰りにファーストフード店で偶然会ったんだけどカワイイなとか思ってさ。で、あの子はおまえの彼女なのか?」

先輩からミドリの名前がでるだけでも、ドキッとするのに彼女かどうかなんて聞かれたものですから、相当慌ててしまいました。
傍から見ると滑稽だったと思いますよ。
ひとりで赤くなってバタバタしてたわけですからね。

「ちがっ、違いますよ」

ボクが否定するのを見ながら腕を組んで何かを考える先輩。
そして、呟くようにさりげなく爆弾発言をしてくれます。

「そうか……じゃあアタックしようかな?」
「え?! 先輩……マネージャーさんが……」
「マネージャー? 気にしない、気にしない」

ボクは内心(これはマズイことになったかも)と思いましたね。
ひょっとして先輩は手当たり次第とか、そういう系の人だったのか?となるとミドリが可愛そうだし、なんとかしないとマズイ非常にマズイ。

ボクの心配を他所に、それからミドリは先輩と急接近するわけです。
帰りは相変わらずボクと一緒なんですけど、彼女は途中から先輩との待ち合わせ場所へ向かうことがあったりしました。
休日デートもしたみたいです。
まあ、会話の内容やデートの様子はこっちから聞かなくても嬉しそうに逐一話しますから、まだ深い関係にはなってないらしくボクは少し安心してたんです。

って、いったい何を心配してるのやら……
まあ、ミドリはマネージャーさんと違ってそこまで踏み込めないだろうとは思ってましたけど。
というか、なんでコイツはここまで詳細をボクに語る必要があるのか理解できませんでしたね。
ボクが聞き出してるわけじゃないですよ。

そんなことよりも、早く彼女がいることを伝えなければ……
焦る気持ちとは逆に、いざミドリを前にすると言えなくなるんですよね。
彼女が悲しむ顔を見たくないというのもそうなんですが、言ってしまうともうミドリとこうして一緒に帰る理由がなくなってしまう……

という複雑な心境だったのも理由だったような気がします。
今、思うとこれがいけなかったわけです。

そんなある日……
ボクは珍しくマネージャーさんから声を掛けられるわけです。

「えーっと……山下君……だっけ?」

ちょっと驚きでした。
話をしたことがない女性がボクの名前を覚えててくれるとか新しいです。
初めてです。嬉しいかも(笑)

「今日部活が終わったら、ちょっと付き合って欲しいんだけど」

なんだか非常に嫌な予感がするんですけど、先輩の彼女ですし無視してもいいことは何も起こりそうにないどころか、悪いことが起こる気がして気の進まない状態で、待ち合わせ場所へ向かったわけです。

そうしてボクとマネージャーさんは、夕暮れの中、公園のベンチに二人座ることになりました。
雰囲気は抜群なんですが、そんな悠長なことは言ってられません。
絶対に先輩とミドリのことだろうな、と思ってましたから。

「ごめんね。急に呼び出したりして」
「いや、全然オッケーですよ。どうせヒマですから」
「実は……早川君のことなんだけど……」

ここまで聞いて、やっぱりそうだろうなと納得しましたよ。
別に変な期待をしていたわけじゃないですが、やっぱり心の底では何かを期待していたんでしょうね。
なんといっても、正常な男子高校生ですから(笑)

「なんだか最近、私の知らない女の子と仲がいいみたいで…… で、その子って山下君の友達じゃないのかなと思って」

いきなり、話がヤバくなってきたじゃないですか。
彼女の静かな口調がボクの緊張感を高めてくれます。
心臓の鼓動が高くなって、喉まで乾いてきましたよ。

「で、どんな子なの?」

若干怒りの感情を含んだ声にボクは戦慄を覚えましたよ。
女性というのは浮気をした男性よりも、相手の女性に対して怒りを感じると聞いたことがありますが、まさにソレです。

それに彼女は全ての裏を取ってるんでしょうね。
先輩に最初にミドリを引き合わせたのがボクだということも分かっての今日なんだと思いました。
こうなるともう逃げられません。

ボク観念して正直に話をしました。

ミドリはボクとは中学から一緒だったこと。
長身でバレー部に所属していること。
外見はそこそこ美少女で、男子にはそれなりに人気があるというか目立つ存在であること。

そして彼女が、先輩に憧れていたこと。

一度でいいから直接話がしたいと言い出し、ボクがそれを段取りしたこと。
あとは……先輩に付き合ってる人がいることは、知らないということ。
でも、学校の帰りにどこかで先輩と待ち合わせをしてるらしいとか休日デートのようなコトをしてるとかは言いませんでした。
だって怖いし。

マネージャーさんは(……ったく余計なことを)というような怒りを含んだ目でボクを見てましたが、最後まで話を聞くと

「正直に話してくれて、ありがとう」

それだけ言って、さっさと帰っていきました。

ボクは自分の無事を喜ぶ余裕もなく、ベンチにへたりこんでしまいましたよ。
それより、自分がきっかけを作ったせいで、なんだか人間関係が面倒な方向へ動いていることが恐ろしくてね。
そして、今日のことをミドリにどう説明したらいいのか分からず一人で頭を抱えてたんです。

が……事態はボクの想像を超えて、斜め上の展開を始めるわけです。
なんと、ボクとマネージャーさんが怪しいとの噂が立ち始めるという。
なんで?!

どうやら、公園のベンチに二人が真剣な表情で座っていたところを誰かが目撃したようで、話に尾ひれがついて広まっていったようです。

二人が公園で真剣に見詰め合っていたとか……これはある意味本当か……いい雰囲気で肩を寄せ合っていたとか……近い状況ではあったけど……抱き合ってキスしてたとか……これはナイわ。
絶対にナイ。断じてナイ。

映像としての雰囲気は、確かに誤解を生む内容だったわけですよ。
それは否定しませんが……
だからといって、先輩の彼女と恋愛とかキスとかするわけないでしょーが。
そんな無謀なチャレンジャーではナイですし。

そういう週刊誌の表紙に掲載されるような状況ですから部内でもニヤニヤと微妙な空気が漂うわけです。
みんな腫れ物にでも触るような感じでボクに接するんです。
否定すれば否定するほど、いっそう酷くなるから困ります。

奴らの頭の中では「略奪愛」という物騒な文字が、小躍りしながら走り回っていたことでしょう。
そのうち、早川先輩の耳にも届くことになり、練習後のクラブボックスに呼ばれることになってしまいました。

簡易ベンチに腰掛けた先輩が、スパイクの紐を解きながら尋ねます。

「山下、おまえアノ噂は本当か?」

直立不動で尋問状態のボクは、緊張と不安で汗ぐっしょりです。
別にマネージャーさんとは、やましいことは何もないんですが、人間関係が面倒なことになっているのは、多分に自分のせいという認識がありましたから。

「噂って、ボクとマネージャーさんとのことですか?」

脱いだスパイクの泥を「コンコン」と払いながらチラッとボクの顔色を覗き込む先輩。
その目には怒りの感情を感じることはありません。
うまく言えないんですが、マネージャーさんとの温度差は感じましたね。

「そうだよ。まあ、オレは気にしてないんだけどね」

ここは全身全霊をかけて弁解させてもらいます。
たとえ男らしくないと言われても、言い訳だってします。
武士じゃないんで、二言だって言いますよ。

確かに健康な男子高校生的期待感ゼロで待ち合わせ場所に向かったということはないですが、実際に何かアクションは、起こしてはいません。
神に誓って。

「いや、あれはデマですよ。デマ。ただ……マネージャーさんから相談を受けたことは事実です。先輩の件で……」
「そうか……そんなことだろうとは思ったんだけどな……」

ですよねー
わかってくれますよねー
なんてホッとした自分がありました。
この際、先輩の気持ちを確かめた上で、マネージャーさんと仲直り?というかしっかりと元の鞘に収まってもらおうとか考えたわけです。

そうすれば、ミドリのことも余計な心配をせずに済みますか
らね。
だから先輩と、もっと話そうと思ったです。

「先ぱ――」

そこで急に扉が開いたかと思うとマネージャーさんの乱入です。いや突入か?
そして次の瞬間、ボクは信じられない状況に陥ることになります。

なんとマネージャーは先輩の前を通り過ぎて、ボクに抱きついてきたんです。
まさか相手を間違ったんじゃないのか?とか一瞬考えたんですが次の言葉で、そうじゃないことが分かります。

「山下君! 誤魔化さないで!あの時、あなたは私に告白したじゃない!」
「え?!」

この人、何を言い始めるんだ!?
これから先輩とサシで話して、この件をクロージングに持っていこうと考えていたのに、何と言う無謀かつ玉砕の特攻発言……台無しじゃん……

こんなこと言われたら先輩だって黙ってはいないでしょう。

裸火を持ってガソリンタンクに突っ込んでくるようなものですよ。
しかし、彼女の勢いは留まるところを知りません。
こっちまで飛び火どころか、もう火達磨じゃないですか。

「そして私たちは付き合うことになったじゃない!こんな奴(先輩を指差す)に気を使うことはないのよ!」

いやいやいや、ナイナイナイ、絶対ナイし?
そんな夫婦喧嘩みたいなことは、二人だけの時に違う場所でやってくれー

と、あまりにトンデモな展開に、苦笑いさえ漏れてしまいそうだったんですが先輩の次の言葉で再びボクは奈落の底へ落とされるわけです。

「山下……そういうことだったのか」
(え? ひょっとして信じてる。あんたバカですか?)

オイオイオイ、なにを血迷っているんですか。
冷静に考えればそんなことあるわけないとか考えないんですかね。この人たちは。
とりあえず、ここは落ち着いてもらって……話せば分かるハズ……

「先輩、違いま――」

と言いかけたボクのでしたが、その言葉を最後まで言うことができなかったんです。
なぜなら、マネージャーさんがボクの口を塞いでしまったから……

唇で――

さて、どうでもいい話ですが、これがボクのファーストキスってやつです。
ロマンチックでもなんでもなく、いきなり修羅場でソレですからね。
非常に残念です。悔やまれます。トラウマになりそうです。

その光景を見た先輩は、ボクの肩をぐっと掴むと「大切にしてやれ」と言ってボックスを後にしました。 
って、オイ待てー

表ではメンバーがザワついています。
「やっぱり、そーだったんだ!」とか「修羅場やね?」とかワイドショーを観てるおばちゃんみたいな会話が聞こえてきます。
おまえらも傍観せずに、先輩を止めろってば。

「誤解でーす」「待ってくださーい」と動こうと思うのですがマネージャーさんが、ボクに絡みついていて身動きできません。
一瞬、殴ってでも引き剥がそうかと思ったんですが、マネージャーさんの悲しそうな目に断念した次第です。

そして、先輩が十分遠くに行ってしまった頃、マネージャーさんはその場に崩れ落ちるわけです……

ボクは(どーすんだ? コレ?)と思いながらも、どうしていいか分からずとりあえずマネージャーさんの気持ちが落ち着くまでは、傍にいた方がいいかと思い、黙って横に座ってました。
自○とか放火とかされたらヤバイとか思ったんですよ。マジで。

そのうち泣き疲れたのか、ボクにもたれかかり腕にしがみついた状態で眠ってしまいました。
この時のボクは困ってました。正直、困ってました。本当に困ってました。何度でも言いますよ。困ってましたと。

どう考えても彼女がボクを好きなハズがありません。
単なる「あてつけ」であんなことをしたことは明白です。
それが問題の解決に結びつくのかどうか知りませんがね。
とりあえず彼女の選んだ手段はそれだったということです。

対するボクの状況は外堀を埋められて、自分の気持ちとは違う既成事実で追い込まれている感じ。

マネージャーさんと公園で密会し
元カレの先輩と直接対決を経て
キスでめでたくカップル誕生……

鬱だし……

このままだと、明日には『新カップル誕生!』と祝福されてしまうでしょう。

マネージャーさんは、ボクには不釣合いなくらい美しい女性であることには違いないんですよ。
でも、なんというか……
昨日まで先輩と、あんなことや、こんなことをしてたんでしょ……ムリですわ?それ。

再婚だって離婚後は、6ヶ月のクーリング期間が必要なんですよね。
そんなホヤホヤで相手の体温が残っているような女性とか、絶対ムリですって。

非常に失礼を承知で言います。
全力でお断りですわ。

さて、30分くらい経った頃、やっと目を覚ましたマネージャーさんは

「あっ、山下君。ずっとこうしてくれてたの?」

なんと呑気な声でのお目覚めです。
ボクは(あなたのせいで修羅場じゃないですか。これからどーするんですか)と言いたい気持ちをぐっと抑えて

「あっ、はい……動けなかったですから……」
「ごめんね……もう遅いから帰ろっか」

美しいお顔で力なく微笑むわけです。
えーっと、ボクはさっきの勢いが急速に萎えていくのを感じます。
実は、こういう表情に弱いんですよね。

ボクを11人集めて、こんな表情のお面をつけた女子チームと対戦したらきっとボロ負けするに違いないでしょうね。
0-15くらいで。
そんなわけで、彼女を放っておけない気分になってしまい、すっかり暗くなった道を二人で帰ります。

どうやら自分の家とは方向が違うようなんですが、なんとなく家まで送った方がいいかと思ってマネージャーさんの足が向かう方向に歩きます。
そのうち家に着いたらしく、玄関の前で足が止まりました。
これでボクの自分の仕事は、全て終わったと思いましたよ。
とっとと帰って明日以降の対策を練らないと、とか思いました。

「じゃ、ボクはこれで帰ります」

そして自転車に跨ろうとした、その時。

「お腹空かない? 私、泣いたらお腹が空いちゃって。何か食べていかない?」

妙なタイミングで妙な誘いです。普通なら断りますよね。
あんな目に遭った後ですから、家なんかに入ったら次はどうなるか分かったもんじゃないですし。

ところが、ちょっと憂いを含んだ笑みが、なんとも妖艶で美しかったのでボクは脊髄反射で「はい」と答えてしまったんですよ。
言ってしまってから気づいたんですがこの時、無意識でしたが1000分の1秒単位で不安と期待を天秤にかけてたわけです。

ファーストキスを奪っていただいたのですから、展開によっては筆おろ……なんとも男の悲しい性です。
いや、男子高校生です。

というわけで、ボクはマネージャーさん宅のダイニングテーブルに座ってました。
彼女はキッチンで手際よく何かを炒めているようです。

そのうち、テーブルには二人分の焼きソバが並びます。
なぜに焼きソバ?

「ごめんね。こんなものしかできなかったけど」
「いや、すいません。わざわざ作っていただいて」

それを食べ終わると、彼女はいかにもお揃いの片割れっぽいマグカップを手にポツリポツリと先輩との話を始めました。
別に聞いてないんですけど……

高校に入学して初めて会った時のこと……
合宿の夜に告白された時のこと……
学園祭の模擬店のこと……
二人で行った旅行のこと……
(えー、その話は先輩から何度も聞きました。深夜編だけですが)

そして、最近すれ違いが多くなってきたことまで話すと、目に涙をいっぱいに浮かべるわけですよ。
なんか可憐で弱々しくって、思わずぎゅーっと抱きしめたくなる衝動にかられるんですがそんなことをしたら、ボクがこの先修羅場の中心人物に進化してしまいます。
いや、もうほぼ中心か?

「今日はね、父も母も遅いの……」

思いがけない言葉に緊張が走ります。
おいおい、マジでこの先があるのか?
どうする? ボクよ?
この際、成り行きに任せてみるのも……

「そっちに行ってもいい?」

緊張して声が出せないボクの無言を肯定と、とったのか隣というか、もう膝の上近くに座るわけですよ。
そして、ねろねろと絡んでくるんですわ。

もうね。ダメですよ、この人。
完全に人格崩壊してます。絶対おかしいです。

(先輩からアッチの方は嫌いじゃないらしく激しいとは聞いてましたが……)

このままいけば、マジでボクの筆……

ボクの脳内では各部位の担当がホットラインで状況報告をし
始めます。まずは隊長の“精神”です。

「各部位、状況を報告せよ!」

左半身:
「左前腕部拘束されており制御不能!続いて上腕部が敵の侵略を受けています!」

右半身:
「こちらは各部異常ありません!回避行動可能です!指示を!」

胸部:
「呼吸が苦しいですっ! 
心拍数も増大してますっ! 警戒レベルです!」

頭部:
「視界良好、聴覚問題ありません!上下唇および声帯正常作動します!指示を!あっ嗅覚がやられました!」
(そういえばマネージャーさんの髪からいい匂いがしてます)

頭脳:
「……」

精神隊長:
「精神から頭脳へ、応答せよ!」

頭脳:
「●△※÷……」

精神隊長:
「ダメだ……完全に混乱してる。コイツが作動しないと行動の指示が出せん……」

その時、ボクの精神は緊張でカチカチになってる担当者を発見する……下半身だ。
直立不動で空を見上げている。

精神隊長:
「今日はお前の出番はないから安心しろ」

下半身は応答しない。

彼にとっては、これが初陣になるかもしれない状況とあり緊張と我慢で大汗をかいている。
相当気合いが入ってる様子だ……

各担当との数十秒のやりとりの後、精神が発動した緊急脱出プログラムにより左右大腿部と下腿部に現在地点からの緊急離脱命令が下された。
もう既に左前腕部、上腕部から背部と腰部、そして胸部まで侵略されておりあと数秒判断が遅れたら、その場に押し倒されてフォール負けだったでしょう。

ボクは命からがらマネージャーさん宅から生還したのです。
自分としては頭脳が結局、何の役にも立たなかったことが情けない……

家に帰ったボクは、明日からどうしようかと真剣に悩みましたよ。
先輩とマネージャーさんは、本当に破局なのだろうか?

でも、今日のマネージャーさんを見てると、まだ先輩のことが諦めきれない様子。
先輩の本当の気持ちが見えないけど……

この際、ミドリに手を引いてもらうことが一番丸く収まるような気がするが。
となると、最初から分かってて進めたボクはどうなる?なんか面白がってたみたいで最低な奴になるんじゃねーの?

まあ、ミドリには明日の帰りにでも正直に話そう。
彼女なら分かってくれるさ、きっと。と考えたんだけど……
甘かった。

翌日ミドリは学校に来なかった。その翌日も。

さすがにこれはマズイことになってるだろうと、帰りに家に寄ろうと思ってたんですが、昼休みに女子数人に囲まれる事態となるんです。

女子A「あんた、ミドリになんてことしたの!」
女子B「最初から分かってて面白がってたんでしょ!」
女子C「ホント最低っ!」
女子D「あんたのせいで、あの子、学校に来たくないって……」

なんでも、ボクがマネージャーさんの家から脱出後、ミドリは彼女に呼び出されて全てをブチまけられたらしい。
しかも、マネージャーさんはボクが最初から全てを知っててミドリの恋愛ごっこを生暖かい目で楽しんでた、と言ったようです。

ミドリとしては、憧れていた先輩に二股をかけられていたこともショックだったらしいが、それよりも、信頼して全てを話してたボク、自分の味方で応援してくれてると思ってたボクがそんな悪趣味なことをしていたことが相当ショックだったとのこと。

それで「もう誰も信じられない!」となり、塞ぎこんでいるらしい。

ボクは、すぐに携帯でミドリに連絡しようとしたが……
着信拒否だし……
メールで「すぐに会って話がしたい」と送信したが返ってきたのはデーモンだ。アドレス変更してやがる。

その日は、午後の授業も部活もパスしてミドリの家へ向かいました。

でも、インターホンを押そうが、玄関で叫ぼうが誰も出てこない。
ボクは、とりあえずノートの切れ端に「会って話がしたい」と走り書きしたモノを郵便受けに放り込んでおきました。

翌日からミドリは、ようやく学校に来るようになったんだけどボクのことはガン無視。

ボクは、なんとか話をしようとチャレンジしたんですが、まったく反応ナシ。
一週間くらいはボクも頑張ったんです。聞いてくれなくても謝りもしました。

状況を一方的に説明してみたりもしましたが……
もう、お手上げですわ。
ここまで無視されると、さすがに面倒になってしまいましてね。
もう、どーにでもなーれ状態です。

ボクって、やっぱり最低男みたいですわ。
というわけで、ミドリとはここから疎遠になるわけです。
夏休み前くらいだったと思います。

さて、部活の方はと言うと、こっちはこっちで面倒な状況でした。
当然のことながら、先輩とマネージャーさんは別れることになってしまいました。

なんだか自分のせいみたいで非常に申し訳なかったんですが、先輩によると遅かれ早かれ別れていただろうとのことです。
先輩がミドリに走りかけたのも、マネージャーさんと色んな意味でのすれ違いが増えてきたかららしいです。
って、そんなものなんですかね……

そして何よりボクを困らせたのが、マネージャーさんの存在でした。
やたら絡んでくるんですよ。
別に嫌がらせをされるわけじゃないんですが他の部員と比べて特別扱い、というか妙に甲斐甲斐しくってね。

ボクは1年のサブでしたから、飲み物とかタオルとかはマネージャーさんから渡してもらえる身分じゃなかったんですが、なぜか主力並みの扱いを受けてました。
どうやらメンバーの中では、ボクの「略奪愛」しかもキャプテンの彼女を奪うというなんとも刺激的なストーリーが完成していたらしく、もう二人の一挙手一投足に注目が集まる状態。

おまけに、部活終了後はボクがどんなに急いで帰ろうとしてもマネージャーさんが自転車置場の前で待っているわけで、ボクは仕方なく一緒に帰ることになるんです。
方向が違うのに。
マネージャーさんは、一生懸命話題を作って話しかけてくれますがボクは失礼のない程度に相槌を打つくらいで、決して楽しい会話じゃないのに。

でも、そんな状態が、しばらく続いた頃、ボクの心境に変化が出てきたんです。
マネージャーさんのことが「なんだかカワイイかも?」とか思えてきて。
そのせいで会話が少し続くようになってくると、彼女がスゴく楽しそうにしてくれるわけです。

だから思い切って、というか調子に乗って聞いたみたんですよ。

「あの……何でボクに優しくしてくれるんですか?ボクは先輩の件で恨まれてるハズじゃ……」
「そのことは、もういいの。彼とは終わるべくして終わったからそれより、気になる男の子に優しくしちゃダメなのかな?」
「いや、その……さすがにマズイかなと……先輩の手前もあるし……」
「だったら、3年生が引退してからだったら、いいのかな?」

なんだか、妙に畳み掛けられてる感じがします。ああ言えばこう言う感じで。
どんどんコーナーへ追い詰められるボクサーのような雰囲気です。
そして、とうとう何も言えなくなってしまいました。

「じゃあ、秋の大会が終わったらキミに告白するから その時は真剣に考えてね」

彼女はそう言うとボクの前から、さっと消えてしまいました。
ボクは、今の言葉を脳内でリピート再生します。
今「告白」って単語を使ったよな??
それって、そういうことなのか??

いやいやいや、山下ユーサク16才、自慢じゃないですが色恋沙汰には縁のない人生でした。
それが美しい上級生から「告白」ですか??
ついにモテキが到来したんでしょうか?
いや襲来か?

ところが、それ以降マネージャーさんは、ボクに絡んでくることはなくなり何かが起こるかも?と期待して勝負パンツまで持参した夏の合宿も普通に終了してしまいました。
あれ?

きっとからかわれただけだったんでしょうね。
ひょっとすると彼女なりの復習劇だったのかもしれません。
一瞬でも喜んだ自分が恥ずかしくなりましたよ。

そしてボク達のチームは秋の大会であっけなく敗退し、3年生部員は引退するわけです。
もちろんマネージャーさんも。

ボクとしては、ミドリの件もマネージャーさんの件も、封印したい過去という扱いで意識的に二人を避けてました。
ミドリは相変わらず後ろの席ですから、否応なく毎日視界の端には入ってくるわけですが、もうボクは彼女を視界の中心に捕らえることはなくなりました。

無視するわけじゃないんですが、視界の端に入ってきたらこっちが先に移動する感じです。
そう、明らかに避けてましたです。今度はボクの方が。
その時、彼女がどんな表情をしていたかなんて知りませんでしたよ。見てないわけですから。

校内は学園祭の準備が慌しくなる頃で、サッカー部は毎年「焼きソバ屋台」を出展することになってるようです。
んっ?焼きソバ……なんとなくイヤな予感がしますよね。
それ、当たりです。

部の伝統として、引退した3年を含むマネージャーの指導の下に1年メンバーが調理することが決まりになっていると、その時に初めて聞かされたんですよ。
う?ん、これは……ボクは、例のマネージャーさんとペアになるわけです。
気まずいです。みんな明らかに面白がってます……

そして、とうとうその時が訪れます。

マネージャーさんと二人で食材の買出しに出かけた時です。
買い込んだ大量の食材のせいで両手が塞がり、動きに自由度が減ったボクに彼女が接近してきます。
これはヤバイ雰囲気です。

「3年生は引退したね……」
「そうですね」

動きにくいといっても相手は女性。
全力で走れば振り切れると思ってました。
いざとなればショルダータックルで……とか無謀なことも考えてます。

「山下君、いつかの話を覚えてる?」
「何の話でしたっけ?」

しっかり覚えてますが、全然覚えてませーん。
もう逃走準備完了です。何か適当な理由をつけてダッシュでその場を去ろうとするボク。
ところが彼女はボクの進路を巧みに塞ぎ、距離50cmの真剣な表情で見つめます。
近いってば。

しかも袖を摘まれた状態ですから、逃げるに逃げられません。
そして、結構ヘビーな話をしてくれるわけです。
先輩とは真剣に付き合っていたこと。
別れてしまったのは残念だけど後悔はしてないこと。

確かにボクのことは最初は先輩への「あてつけ」だったこと。
でも、毎日一緒に帰るようになってなんとなく気持ちが落ち着いたこと。
それが恋なのかどうかは自分でも分からなかったこと。

だから自分の気持ちを確かめるために「3年生の引退まで」と期間をおいたこと。
そして、今日結論が出たらしいです。

「だからね、山下君。私と付き合ってくれないかな?年上は嫌い?」
「年上だから嫌いとか、そんなことはないです……」
「だったらオーケーということで、いいかな?」

ここまで聞いて、ボクは初めてマネージャーさんの目を見ました。
見慣れたというか、よく知った女性なのに初めて見たような気がしました。
少し年上の美しい女性が、なんとも不安げな表情で自分を凝視している姿に抗う術は、男子高校生にはありませんでした……

というわけで、ボクはマネージャーさんと付き合うことになったわけです。
ただ、彼女はあと数ヶ月で卒業ですし、なんといっても、受験の追い込み時期ですから、休日にデートとかはできないんですよ。
それでも毎日一緒に帰るのは、楽しかったです。

そして意外にも?彼女は純真というかカワイイところがあるんでドキドキしました。
先輩から「あんな話/深夜編」を聞かなければよかったなとかはちょっと思いましたけどね。

―― 第二部 復讐 ――

冬休みに入ると、彼女は冬期講習で受験の最終の仕上げに入るわけです。
だからボクは彼女がいるにもかかわらず、クリスマスも正月も独りなわけでした。
仕方がないんで、バイトしてましたよ。
レンタルビデオ屋で。ほぼ毎日。ずーっとね。

そういえば、ミドリがクリスマス前に店に来たことがありました。
ホラーとか純愛モノのビデオを大量に借りていきましたね。
あれだけの量を観るんですから、クリスマスの予定はないんだろうなあとか思いましたよ。
言いませんけど。

その頃になると、彼女はボクを見ても反応も示さなくなってましたね。
なんだか怒ってるというよりは、困ってるような雰囲気はありましたけど。
でも、もうどーでもいいですわ。赤の他人ってことです。

ボクは誤解されたままというのが、気に入らなかったですけど今さら誤解を解いたところで、何が変わるわけでもないですし。
滑走路を走る飛行機に例えるなら、既にV1速度(離陸決心速度)を超えてますからね。もう元には戻れないんですよ。
ボクとミドリは。

そういえば、いつまでも「マネージャーさん」では彼女がかわいそうなので、以降は名前で呼ぶことにします。
ユウコ(仮名)さんです。
ユウコさんと会えない冬休みは、ほぼ毎日メールしてました。

ボクのバイト終了時間と、彼女の講習の終わる時間が合えばちょっとだけ会ったりもしました。
そして一緒に帰るだけ。
先輩の頃とは、180度趣の違う清い交際です。
彼女のエネルギーは、全力で目の前の受験に向かってましたからね。
ボクへ向ける分は残ってなかったんでしょう。

そして、1月のセンター試験から始まり、私立、国公立と怒涛の試験が続いたようです。
バレンタインの時期も会えませんでした。ちょうど私立の試験と発表の間の時期で、とてもそんな気分ではなかったようですからね。
さすがに、その時期はメールすらできなかったですし……

1年生のボクは部活とバイトという気楽な状態でしたけど、ユウコさんはこの時期、辛かったことでしょう。
そして、試験の出来に一喜一憂しながらも、志望校のひとつに合格したようで無事卒業式を迎えました。

彼女は地方の(いや、こっちが地方だから都会のだな)四大に決まったようです。
だから、今以上に会えなくなるのは確実でした。
そういえば、合格発表があってからもデートとかするヒマがなかったです。
バレンタインのなかったボクにも、ホワイトデーはあるかと思ったんですが彼女は下宿先探し、引越し、オリエンテーション、おまけに合宿免許とイベントづくしで、超忙しかったみたいでしたから。

会えないことが続くと心は募るわけです。
なんというか、彼女って上手いんですよ。
残念ながら、先輩とのようなコトは、何ひとつお世話にはなれませんでしたがちょっとした仕草とか、メールの文章とかにスゴく惹きつけられるんです。
もうね、純真な男子高校生の心を、ガッツリ鷲掴み状態です。

そして4月を迎えます。

ユウコさんは都会の大学、ボクは地方の高校での遠距離恋愛のスタートです。
さすがに、これはもうダメかなと思いましたね。
都会のイケメン大学生になんて太刀打ちできませんから。

ボクとしては、せっかくですからお付き合いさせていただいてる間に甘いキスのひとつくらいは、させてもらってもエエんじゃないんすか?
くらいは考えてました。若干、諦めモードに入ってましたね。
そうそう、あのクラブボックスでのやつはナシですよ。
あんなのは回数のうちには入らんです。キッパリ。

そんなことを考えている頃に、ユウコさんからメールが届きます。
「週末にデートしよう!」でした。
そこには運転免許を取得したこと、家の車を借りてくることが書いてあり、ドライブデートに行くことになりました。

それまでの厭戦ムードも忘れて有頂天でしたよ。
付き合い始めて約半年、念願の初デートです。
しかもドライブですからね、初っ端から二人きりですし!!!
もうね、期待で胸が膨らむだけじゃなく、余計なところも全力で膨らんじゃいましたよ。

ついでに全バイト代を総動員して財布も膨らませておきました。
車ですからね、国道沿いの建物に突入しやすそうじゃないですか――
いや、突入なんてしなくても、車の中でもある程度は……妄想ニヤニヤ

昼前に待ち合わせて、途中でご飯を食べると雰囲気のいいドライブコースを走ります。
春の日差しは気持ちよく、ちょうど咲き始めた桜が風に揺れる公園の駐車場に車を停めると、まったりとした気分が二人を包みます。
なんとも甘い空気感が二人の間に流れて――

彼女はボクにゆっくりと語りかけます。

「山下くんって、私のことどう思ってる?」
「好きですよ。スゴく。会えないことが続いたけど、その分これから二人で頑張ればいいかと」

この言葉を聞くと彼女は満足そうに笑い、独り言のように呟きました。

「二人で頑張れば……か」

ボクはそれが何を意味するのか分からず、黙ってました。
しばらく二人は沈黙……そして……

突然彼女がクスクス笑い出したかと思うと、鋭い視線でボクを睨むわけです。
甘い展開を期待していたボクですが、これは何か違うんじゃないのか?とか思ったです。

そして、すぐにヤバイ状態だと悟りました。
彼女があの夕暮れの公園の時と同じ表情をしていたからです。
鋭い両眼から怒りのオーラが放たれてました。

「二人で頑張ればですって? は? なめてんの?」

その言葉を皮切りに、恨みの言葉がボクに刺さります。
罵詈雑言ではありませんが、いたいけな男子高校生を傷つけるには必要十分だったです。
途中からは自己防衛本能が働いて、何も聞こえなくなりましたから。

そうです。彼女は先輩と別れなければならなかったことをまだ怒っていたんです。
そして、復讐としてボクを同じ目に遭わせてやると決心していたようです。
半年間の長期に渡る、執念の復讐劇でした。

だからボクに接近し、彼女(もどき)になって十分に気持ちを惹きつけた上で別れてやると。
そんなわけだから、デートもしないし、何もしない。
ただただ、ボクを焚き付けることに専念したとのこと。

そんな中で、一つだけボクに感謝したいのは、怒りの感情を受験にぶつけることができたことらしいです。
おかげで、自分の偏差値よりもランクの高い大学に受かったと高笑いされてしまいました。

で、自分の新生活も軌道に乗り始めた今日が過去への決別を告げるXデーと……
ボクは、とても悲しかったです……

彼女に振られたこともそうですが、それよりも辛かったのは彼女の深く傷ついた心に、まったく気づけなかった自分が悲しかったです。
彼女はボクに復讐することで、傷ついた心を必死で癒そうとしていたということを、つい今さっき知ったという事実でした。

彼女は相当辛かったことでしょう。
それが証拠に彼女は復讐を果たしたハズなのに泣いています……

怒りの感情は既に消え去り、ただただ泣いています……

ボクは罪悪感でいっぱいです……彼女の本当の気持ちも知らずに恋人気分で一人盛り上がったりして……ラブホ突入妄想とか……
なんという最低男……

本当の彼なら、そんな彼女の気持ちに気づいて当然ですよね。
そうすれば、こんな展開にならずに済んだかもしれなかったのに。

そして最後は、二人で号泣という悲しい最後……

しばらくして、彼女は落ち着いたのかボクに話しかけます。
これが、ボクの聞いた最後の言葉でした。

「山下君、悪いけど私を一人にして欲しいの……」

ボクは黙って車を降ります……彼女の車は静かに去っていきました。

ボクは、しばらくは感傷に浸っていたんですが徐々に、今の自分の状況が不安になってきたんですよ。
(いったいここはどこだ?)

その頃のボクの携帯には、GPSなんて素晴らしい機能は装備されてませんし
なんとかマップみたいな便利機能もない時代でしたから、帰宅は困難を極めました。
太陽の方向から東西南北を考えるとか、何のサバイバルよ?

夕暮れの中、ひと気のない田舎道を一人、とぼとぼと歩きながら心に湧き上がってくる後悔と悲しさと不安の入り混じった感情でシクシクと泣いていたのを覚えてます。
情けない男です。

そのうち一軒のガソリンスタンドを見つけて、恥ずかしながら事情を話して
(確か、彼女と喧嘩して車から降ろされた、とか言ったと思います)
帰宅方向へのバス停まで送ってもらいました。

1時間くらい待ってバスが来ると、そこから最寄駅へ、そして電車を乗り継ぎ帰宅したのは終電近い時刻でした。
なんだかスゴーく疲れて、晩御飯も食べず、風呂にも入らずに泥のように眠りました。

おかげで体調悪いアピールが十分にできたのか、翌日曜日は朝から叩き起こされることもなく、グダグダしてます。
一日中ベッドの中で、去年からの自分の行動を振り返ってました。
いったい何が悪かったのかなぁーとか
嫌がらせをしたわけでもないのに、みんなに嫌われるとか辛いよなぁーとか

そんな思考の中で、ミドリが浮かんでは消えていきます。

彼女のことは意識的に心の底に沈めてましたから、いつの頃からか名前すら浮かんでこなかったんですが、その日は頻繁に登場します。
遂に彼女は、今頃どーしてるのかな?
とか考えるように、なってしまいました。

そういえば、ミドリとは二年でも同じクラスでした。
が、ボクの後ろには“山本コージ”とかいうメガネ属性で少しおとなしめの奴が緩衝材として座っていたせいで、直接彼女に接することなく過ごしていたんです。

一人で色々と考えたところで答えが出るハズもなく、結局は惰眠を貪るだけの一日に、なってしまいました。
翌日、なぜか部活のメンバー全員が、ボクの破局を知っていましたね。
大方、ユウコさんが現在のマネージャー経由で暴露したんでしょう。

ボクの気持ちは、悲しさ8割、ホッとした感2割、といったところです。
なんでホッとしたかというと、もうこれで「略奪愛の主人公」というセンセーショナルな肩書きが、なくなるからですかね。

メンバーは、メシウマ7割、同情1割、無関心2割かな。
マネージャー群は…… 全員が「氏ねよお前」です。
きっと、あることないこと吹き込まれてるんでしょう。
もうエエですわ。弁解する気力もないっす……

それからしばらくは、マネージャー連中の刺すような視線に耐えながらの部活と、いまだに和解できていないミドリと同じクラスでの授業、という針のムシロのような日々が続きます。

―― 第三部 事件 ――

そんなある日、後ろの席の山本コージが担任と、何やら話をしているのを見かけました。
そしてボクは担任から呼ばれると思いがけない提案を受けることになります。

「山本コージが、目が悪い上に、お前が大きくて前が見えないから席を替わって欲しいと言ってるんだがどうだ?」

ボクは席なんて最前列の教卓前、いわゆる「残念な子」席以外ならどこでもいいと思ってたんで、即答で「いいですよ」と答えてしまってから気づいた。

「げっ、ミドリの前になっちまうぞ!」

彼女と話さなくなってから、もうすぐ1年にもなりそうでした。
以前のよう仲良くなくても、せめて普通に挨拶くらいはできるようになればいいかなと考えて、思い切って声をかけてみました。

「よっ、また前に座らせてもらうぞ」

どうせ反応がないだろうと思って、非常に軽く言ったんですよ。
ところが、想像以上の反応がありましてね。
いや、別に大歓迎で感激してくれたとかじゃないですよ。

「どーぞ」

彼女は、かなり驚いた様子でした。
たぶん、ボクが何か言うとは思ってなかったんでしょう。びくっとしてましたから。
そして、視線を90度横に向けたまま、非常に無愛想ながらもハッキリと言ったのが、さっきの言葉でした。

声を聞いたのが、ほぼ1年ぶりだったので懐かしくてホッとしたのを覚えてます。
それからボクは毎朝席に着く時は、彼女に「おはよう」だけは言うことにしました。
そして、彼女も「おはよう」だけは返してくれることになります。
ボクは、もうそれだけで十分満足だったし、実際にそれ以上はない日が続いたわけです。

そして事件です。

6月になると「校内球技大会」という催しが開催されます。
去年は確かソフトボールだったと思いますが、今年はサッカーらしいです。
これはヒーローになって、女子からキャーキャー言われるチャンスとか考えるんですが、残念ながらサッカー部員は各クラス2名までの登録。
残りは、審判をさせられるらしいです。なんという不幸。

ウチのクラスには、3名のサッカー部員がおりましてね、そりゃ誰だって出場したいでしょう。
せっかくのアピールの場ですからね(笑)
ここで頑張れば、ひょっとすると楽しい青春の夏休みとかに繋がるかもしれません。

ボクだって第4種(小学生)の頃はエースストライカーとして昔は女子高生だったママ連の「茶色い声援」を浴びていたんですから。
やっぱりここは、現役女子高生の「黄色い声援」の中でプレーしたいじゃないですか。

ところが……例の一件以来、潜在的に女子から不人気なボクは選に漏れるわけです。
審判確定ー!
もう、こうなれば第4審として、ずーっと椅子に座っててやる。絶対に動かんぞ。

という固い決意も虚しく、当日は主審として笛を吹くボクでした……
腹いせに、サッカー部員に対してはファウルもオフサイドも超辛口で判定します。
こんなイベントでもカードを出す気満々ですからね。

笛の度に胸ポケットを触ってビビらせてやりましたよ。
たとえイベント戦でも笛の後に胸のあたりを触る審判に呼ばれると反射的にイヤ?な気分になるんですよ。
ざまーみろ。ニヤニヤと、嫌がらせモード全開でしたが……

パキーンッ!

その時です。
何か分からない硬いものが、ボクの右顎辺りを直撃します。
ノーガードで強烈な左フックを食らったのと同じ効果で、ボクは一瞬で意識が飛んでしまいました……

嫌味な笑みを浮かべながら笛を吹くボクを襲ったのは、時間待ちに草野球を楽しんでいた連中が打ち放った軟球でした。
ライナー性の打球でしたからね、もしこれが硬球なら、顎が砕けてしばらくは流動食だったでしょう。
打ちどころが悪ければ、戒名をもらっていたかもしれません。
幸運なことに軟球でしたので、脳震盪だけで済んだようです。
日常から、部活がひしめきあっているグランドなので、サッカーをやってる横でバットを振り回す奴がいても、おかしくない環境なんですよ。

その後、ボクの意識は救急車が到着した辺りから、ぼんやりと戻ってくることになります。
でもまだボーっとしてるし目を開けると、めまいで気分が悪くなりそうだったしおまけに顎がジンジンと痺れて、しっかり話すどころではなかったです。

だから救急隊員に名前を呼ばれた時は、なんとか返事をしようと呻くのが精一杯でした。それでも、意識があるアピールには、十分だったようで隊員は

「怪我は大丈夫ですよー」
「今から病院に向かいますからねー」

落ち着いたというか、どこか呑気な口調で呼びかけ続けてくれました。
そのうち意識がハッキリとしてきて、視覚以外はしっかりと働くようになってきました。

隊員が担任か誰かに状況を聞いている様子
無線で本部か病院と連絡している様子

そして……
ボクの手を強く握り締めたままの誰かが、震えて泣いている様子――

手の感触から、それが女性であろうことは分かりました。
柔らかかったですからね。
もし、男がボクの手を握りながら震えて泣いていたら、きっとトラウマになっていたと思います。
想像しただけで寒いわ。

ボクはハッキリしてくる頭で、その手の主を考えます……誰なんだ?恐る恐る目を開けると……
そこにいたのはミドリでした。

グランドに崩れ落ちるボクに、最初に駆け寄ってきたのも彼女だと聞きました。
顔面蒼白でボクの名を呼び続け、誰にも触らせなかったとのこと。
クラスでは、その狼狽ぶりからボクが死んだと思った奴もいたらしいです。
そして、救急車には担任を押しのけて自分が乗り込んだようです。

救急車がサイレンを鳴らして動き出す頃には、意識はかなりハッキリとしていました。
その代わりに顎の痛みが襲ってきて、非常に苦しかったことを覚えてます。
ただ、ミドリが同乗してくれてるのは嬉しかったですね。

呻くボクの右手をしっかりと握って、なぜか自分が泣きながら

「大丈夫だから、大丈夫だから」

と、ずっと励ましてくれましたし。

検査が終わり、病室のベッドで横になっていると制服に着替えたミドリと担任が入ってきました。
ミドリはボクの顔を見るなり、みるみる泣き顔になってしまいました。

「ユーサクのバカぁ?!」

泣き顔の彼女が、ボクに抱きついてきます。

正直なところ悪い気はしません。
誰かが自分を心配してくれると実感できるというのはなんだか、こそばゆいものです。
相手がカワイイ女性なら尚更です。
思わずニヤニヤしそうになるんですが、顔の表情を変えようとすると激痛が走るので、そうもいかないのが苦しいところです。

話すことができない上、表情を変えることができないという状況下でのコミュニケーションは困難を極めます。
せっかく仲直りのチャンスなのに、ひたすら無表情でいなければならないのですから。

そんな様子をみた担任がニヤニヤしながら、あるモノを取り出します。
磁石と砂鉄を使って絵を描く子供用のおもちゃです。

一度は使ったことがあるでしょう?
半透明の白い板の上に磁石で線を引いて絵を描き、レバーを左右にザーっと動かすと、それが消えるというアレです。
どうやら病院の備品のようでした。

それを使ってボク達は、かなり長い時間、静かな「会話」をしました。
会話文の始めはボクからです。

「心配かけてゴメン、もう大丈夫だよ」

ミドリはその道具をボクから取り上げると

「ホント心配したんだから、バカ」

そこまで書くと、それをボクに突き返します。
話ができないボクは仕方がないとして、なんでミドリまでその道具を使ったのかは謎です。

それからボクは1年前の件を謝りました。本当は色々と言い訳を書きたかったんですが、なにしろ子供用のおもちゃですから細かい字は書けませんし、画面も小さい。
だから……

「1年前の件は、ごめんなさい」

きわめてシンプルな謝罪文です。
こんなんじゃ許してもらえないかと思いましたが、それ以外に思いつかなかったんですよ。

「元気になったら許してあげる」

この文字を見たときは、涙が出るくらい嬉しかったですよ。
そして、彼女はそのおもちゃをボクに渡すことなく、続けて何かを書き始めました。
静かな部屋に、ペンの音が響きます……
そういえば、いつの間にか担任が消えてます。

「1年間、本当に辛かったよ……」

それからは、彼女の文字による1年間の心情の吐露が続きます……本当に怒ってたのは最初だけで、そのうち事情が分かってきたらしい。
だから仲直りをしようと思ったのに、その頃にはボクが彼女を避けるようになってしまっていたとのこと。
何度か声を掛けようとしたけど、無視されるのが怖くてできなかったこと。
そして、そのままの状態で夏休みに突入したと。

そのうち、ボクがマネージャーさんと付き合い始めたこと聞いた時には後悔とショックで、何日か学校を休んだこと……
ボクはマネージャーさんとの件は、やはりミドリには伝えておこうと思いました。
だから、おもちゃを受け取り、こう書きました。

「彼女には、結局許してもらえなかったよ」
「知ってる……」

彼女は、次にボクが何を書くのか待っています。
ボクはマネージャーさんにフラれたせいで、ミドリと再接近してるとか思われたくなかったから、どうしても次の言葉が書けません。
本当は……

「ずっとミドリが好きだったことに、やっと気づいた……」
と書きたかったのに……

ちょうどその時、ボクの母親が、わさわさと病室に到着です。

「あんた大丈夫なの?? もう、ほんっとに鈍くさいんだから?」

愚痴モード全開で近づいてきてから、ミドリの存在に気づきます。
もうね、なんというタイミングの悪さ。わざとなのか?

「あっ、ミドリちゃん来てくれてたんだ。ありがとうね?、ほんとコイツはダメよね?」

母とミドリは知り合いというか、家も近所なのでお互い知ってるんですよ。
というか、帰れよ。頼むからさー

母は例のオモチャを見つけると

「何コレ? 懐かしいおもちゃじゃないの。ひょっとしてあんたたちコレで会話してた?へー、それでなんか進展があったわけ?」

場の空気を読まない爆弾発言を、かましてくれます。
ほんっとに帰って欲しいですわ。担任だって空気を読んだのに。

ミドリは顔を真っ赤にすると

「じ、じゃあ、今日はこれで失礼します!」

バタバタと慌てて病室を出て行きました。

「あれぇ?? 母さん邪魔しちゃったかなぁ?ゴメンね?」

ぜんぜん悪いと思ってない口調で、聞きもしないコトをさらに続けます。

「母さんはね、ミドリちゃんの方が好きだよ。えーっと、ユウコさんだっけ?あの子はイマイチね、あれは本気じゃないかもよ」

ズバリ核心を突いてきます。
うっ、と言葉に詰まるボク……って、今はしゃべれませんけど。

「まあ、決めるのはアンタだけどさ」

なんでコイツは、こんなに細かい状況を把握してるんだ?
ボクは不思議に思いましたよ。
ひょっとして、ボクの携帯とパソコンを毎日チェックしてるんじゃないだろうな?
確かに、母にはユウコさんと一緒に居るところを何度か目撃されたことはありましたけど。
それだけで、この情報量とは……女の勘か?

結局ボクは観察入院で1泊だけすると、翌朝には帰宅となりました。
学校には午後から登校となったんですが、意外にみんな冷静でしたね。
仲の良い友達以外からは、特に歓迎されるでもなく、心配されるでもなかったですから。
存在感が薄いと、こんなもんなんでしょう。

ミドリは歓迎してくれましたけどね。それで十分かな。
「今日もお見舞いに行ってあげようと思ってたのに退院したんだ?ざんね?ん」

ボクも気の利いた冗談でも言えればよかったんですが、如何せん顎が痛い。
顎が痛くなくても、気の利いた冗談なんて言えたことはないんですけど。

こうして無事に和解したボクとミドリは、以前の関係に戻りました。
教室では笑い合い、部活の終わる時間が近ければ一緒に帰る日々です。
そしてボクの顎が完治した頃、彼女からメール着信。
メールにはカワイイ絵文字付きで、こう書かれてありました。

「お祝いにデートしてあげる(はぁと)」

そりゃ嬉しかったですよ。叫びたいくらい。
震える手で返信しました。

「よろしくお願いします」

恥ずかしながら、人生初のデートです。
いや、2回目か。でもあれは……やめておこう、胃が痛くなるし。

そういえば、外出用の服がない。前回は、慌てて春服を買いに行きましたが今回は夏服です。
デートは楽しみですけど、いちいち服が面倒だなと。

部活と塾以外で外出なんてしませんからね。
学校は制服ですし。
サッカー用のジャージ系以外では、ヨレヨレのTシャツとボロボロのジーンズそして汚れたスニーカーが、ボクの持ってる夏服オールキャスト。

さすがに、これではマズイ。清潔感が皆無。これじゃ並んで歩く相手が可愛そうだし。
そして、妙なプリントや柄はハズレが怖いので、とりあえず地味な単色、無地そして普通の形を購入。
カモフラージュとか国防色なんて絶対買いませんよ。

スニーカーについては諦めました。
当日にピカピカ新品ってのは超気合が入ってるのが丸わかりで、さすがに恥ずかしいですからね。
とりあえず、これで準備完了です。

で、待ちに待った当日。もう、緊張して暗いうちから目覚めましたよ。子供かってくらい。新聞すら届いていなかったです。
なぜか母は起きてましたよ。怪しいやつめ。尾行するつもりじゃねーだろーな。

待ち合わせは最寄り駅。ボクは、ひょっとして誰かに見られたら面白いというか嬉しいというか、そういう妙な下心? 
みたいなものがありました。
他力本願的に噂になって既成事実化したら――
その先の展開が――
とか思ってたんです。厨二病ですね。高二でしたけど。

さて、行き先はシネコンです。ロードショーです。
アニメではありません。
ですが、映画の内容は全く覚えてません。

なぜならボクの頭の中は、勢いで買った巨大ポップコーンと、巨大コーラのコンボを如何にして物語の終了までに、やっつけるかに集中していましたので。

そうして、ボクはミッションを無事完遂できたことに満足しながらシネコンを後にしたわけです。
彼女は、映画の感動したシーンを楽しそうに話しているんですけど、ボクは胸やけが酷くてそれどころではなかったのを覚えてます。
映画の内容は覚えてないのに。

で、ショッピングモールをウロウロしてると、彼女が小さなアクセサリーショップを見つけて、そこに入りたいとか、なったわけです。
カワイイモノがイッパイの店で、お客さんも女子ばかりでしたから非常に入りづらかったんですが、覚悟を決めて一緒に入ることにしました。
一大決心です。過呼吸になりそうでした。

そういう系の店は初めてだったんですが、印象としてはその光景よりもとりあえず匂いでしょうか(笑)
なんたって女子がいっぱいですし、コスメっていうんですか、そういうモノも売ってますし……それらの混じった香りにクラクラしたのを強烈に覚えてます。

実はボク、女性の香りにも弱いんですよ。

家族にも親類縁者にも年配の女性しかいないもんで、若い女性のシャンプーとか化粧品系の匂いがすると、なんだか興奮してしまって(笑)
立派な変態ですね。

彼女は「これカワイイ!」「これもカワイイ!」と結構楽しんでたようでした。
ボクはドキドキしかしてませんでしたが。
そのうち、ショーケースに入ったモノを見て立ち止まりちょっと、はにかむように言うんです……

「これ買って!」

彼女が指をさしている先に何があるのか覗くと……
うぉっ指輪だ。

その瞬間、アドレナリンが大量に放出されました。
だから体の痛みどころか、財布の痛みも感じません。完全無痛です。

彼女がどんなつもりだったのかは知りませんが、こうなったら買うしかないでしょう。
もう全力で貢いじゃいますよ。
たとえ財布が空になって徒歩で帰るハメになってもね。
いや、もう徒歩はイヤだな……

というわけで、ボクは細

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