会社の同僚が突然死したらしく、通夜に行く事になった。まだ34歳でピンピンしてたのに、人の運命というのは分からないものだ。
それにしても可哀想なのは、残された奥さんだ。5年前の結婚式で会ったきりだが、同僚より5?6歳年下で大層な美人だったと記憶している。たしか製薬会社の研究所に勤めていて、営業に行った同僚と出会ったはずた。子供がいないので、再婚という道もあるだろうが、奥さんは打ちひしがれているに違いない。
通夜の会場でお悔やみを伝えていたら、奥さんが挨拶に出てきた。記憶よりも美人度か上がっているのは、喪服のせいだろうか?和装では無く、洋装の喪服で、黒いワンピース、黒いタイツ姿だった。
不謹慎で申し訳ないが、俺は奥さんの喪服姿に欲情してしまった。通夜の間、弔問客に挨拶する奥さんは、亡き同僚の骸の前で正座している。ワンピースから覗く奥さんの膝頭がなまめかしい。まだ若いから再婚の道も・・・
49日が過ぎた頃、遺族年金の手続きで、亡き同僚宅を訪問した。応対してくれた奥さんは、黒いセーターに黒いスカート、黒タイツ姿だった。聞くと一周忌が済むまでは、黒い衣装で喪に服すつもりらしい。俺は奥さんの健気さに心を打たれると共に、こんないい奥さんを残して死んでしまった同僚は損をしたな、と思いながら仏壇に線香をあげた。
すぐに帰るつもりだったが、奥さんが料理を作ってくれ、引きとめられた。同僚と仲の良かった俺から、会社でどんな様子だったか、どんな話をしていたか聞きたいそうだ。色っぽい奥さんにそこまで言われて帰る訳にはいかない。せっかくの手料理を頂く事にした。そしてあわよくば奥さんも。
話は弾み、気がつくと終電の時間を過ぎていた。タクシーを呼んだが、あいにくの豪雨でつかまらない。奥さんは泊まっていけという。お風呂も使って下さいと、初々しい新妻のようだ。もしかして誘っているのか?と俺は都合のいい解釈をしてしまった。次の瞬間、俺は酔ったフリをして奥さんに抱きついた。
奥さんは軽く抵抗したが、俺の欲情を受け入れた。俺に唇を吸われ、乳首を吸われ、性器を弄られながら、腰が動いていた。同僚の遺影が置かれた仏壇の前で奥さんと二回セックスした。
奥さんを犯してしまった責任を取って俺は離婚した。この間、すったもんだがあったが、一周忌が終わった頃、奥さんと同棲を始めた。一緒に暮らしてみると、彼女は本当によくできた女性で、妻として最高だった。特に夜が良かった。見た目のおしとやかさとは反対に、本能のままに男を貪る性欲の塊だった。以前は、死んだ同僚がうらやましかったが、その大変さが身をもって分かった。でも俺は幸福だった。
ある日、書留が届いたので何気なく開けてみると、生命保険の証書だった。証書は俺の死亡保険二億円について書かれていた。受取人は同棲中の彼女だ。
二億円??あり得ない高額保険の掛け金は、彼女が払っていた。疑念にとらわれて証書を見ていると、彼女が物凄い剣幕で証書を奪い取った。私に来た書留を勝手に見るんじゃねえ。その形相は安達が原の鬼婆も逃げ出す迫力だった。
事情が分かって来た俺は恐ろしくなった。元同僚にも高額保険がかけられていたに違いない。そして今度は俺にも。同僚はあの女に殺されたんだ、次は俺も殺される。俺が彼女とデキた夜、あれこれと質問したのは、殺される疑念を抱いた同僚が、何か証拠となる事実を俺に伝えていなかったか確認するためだ。シロだったから俺は無事だったが、クロならその場で毒を盛られていただろう。元製薬会社の研究員・・・。市販の薬を調合して、証拠を残さないように、毒殺する事はたやすいだろう。
すぐに逃げないといけない。警察にも通報を、と思った瞬間、俺は倒れた。体が痺れて動けない。彼女が俺の元に来て、ニヤニヤしている。長い名前の薬品成分を述べ、この半年間俺に与えて来たという。間も無く俺は全身麻痺に陥り、呼吸が止まる。この世の名残にと、彼女は俺の顔を跨り股間を押し付けた。黒いタイツのザラザラした生地が、俺の覚えている最後の光景だ。さようなら、と彼女は言った。
目が覚めたとき、俺は病院にいた。傍には離婚した元妻と、刑事が佇んでいた。刑事の説明によると、慰謝料の支払いが滞っていた事に、元妻が腹を立て、その兄と共に乗り込んで来たところ、死にかけの俺を発見したそうだ。俺を毒殺しようとした女は、逃亡先で確保され、一連の保険金殺人について供述を始めているらしい。刑事は危なかったですよ。元奥さんに感謝するべきですな、と言い病室を出た。
部屋に残された俺と元妻は、しばらく黙っていたが、一連の出来事がなんだかおかしく思えてきて、クスクスと笑った。