近所に住んでたお姉さんとの話

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近所に住んでたお姉さんとの話
血は繋がってないけど本当の姉以上に大事な人、その人の名前はみどり子姉ちゃんという
本人は今でも「今時色の名前なんて・・しかもみどりなんてどう思う?」
というが僕はずっと大好きだ、だって凄く優しそうな名前で彼女にピッタリだから・・

姉ちゃんは僕が生まれた時に向かいの家に引っ越してきて僕とは10歳離れたお姉さん
一人っ子で兄弟が欲しかった姉ちゃんは俺がまだ言葉も喋れないうちから
毎日のように遊んでくれて、姉と弟みたいにして育った。

実際僕は小さい頃は本当に姉のように思っていた。
良くお互いの家に泊まって、小学校低学年まで一緒に寝たりお風呂にも入った。
毎日優しく僕の髪や背中を洗ってくれるし、いっぱい遊んでくれた。
今思えば凄く勿体無い話だけど、この頃は本当に僕は子供で姉と弟みたいな感じで
一緒にお風呂に入ってて、みどり子姉ちゃんの胸やお尻を何度もみたけど
ドキドキしたりもしなかった。

みどり子姉ちゃんは本当に優しくておやつだってなんだって僕にくれるし
虐められたりすると直ぐに助けてくれた。

小学校に通うようになってからは毎日宿題を見てもらっていた。
姉ちゃんは勉強が凄く出来る人で
この頃から将来は先生になりたいと言っていた。
僕は勉強は大嫌いだったけどみどり子姉ちゃんと一緒に居たくて
宿題は毎日欠かさずやってた。
「宿題みてよ!」って言うと姉ちゃんは何時だって
「もーユウ君たまには自分でしないとだめよぉ」というけど結局熱心に見てくれた。

小学校高学年になる頃には、はっきり姉ちゃんの事が好きに成っていた。
実の姉弟じゃない事もとっくに自覚していたし何より姉ちゃんは凄く美人でもてていた。
一緒に外に出歩いていても直ぐに男の人が声をかけてきた。
その度に姉ちゃんは「ユウ君いこ!」と僕の手を引いて走り出す。
そんな時の姉ちゃんは僕に対するのとは別人みたいに怖い顔でツンツンとしていた。
「ユウ君はああいう男の人になっちゃだめだよ!」
真面目な姉ちゃんは暫く走って安心すると決まってそういうのだ。
この事が原因なのかは解らないが、僕は中学高校とよく硬派あつかいされていた。

優しそうな丸い卵型の顔、それに輪をかけて優しそうなパッチリのタレ目
黒髪ロングだけど外ではいつもポニーで短くまとめてた。
僕はいつも家でみる髪を下ろしてるみどり子さんが好きだった。
シャワーあがりとかのまだ乾ききってない髪を乾かしながら
僕の話に笑う姉ちゃんは最高に色っぽくて綺麗だった。
彼女のそんなくつろいだ姿を見れるのも子供ながらに自慢だった。

あの頃の僕は毎日が本当に完璧だと思えるほど幸せで万能感に満ちていた。
だって、毎日のように一番大好きな人のそばで笑ったり泣いたり出来たのだから
その人にとって自分が一番だとそう思っていたのだから

ある日姉ちゃんが宿題の終わりに言った。
「もうユウ君とこうやって勉強するのもあと少しだねぇ」
僕は一瞬何を言われたのか解らなくて
顔を上げて姉ちゃんの顔をみてから何を言われたのか飲み込んだ
「えっ?なんで?」
「だって、私今年卒業だものw大学へ行くんだよ言ってたでしょw」
確かにそんな話はしてた・・でもずっと先だと思ってた。
というかこの頃の僕はそんな当たり前の事に気がつかないほどに
姉ちゃんに夢中で毎日が薔薇色だった。
「前から言ってたでしょ私学校の先生になるからその為の勉強をしにいくの」
「ココからじゃちょっと遠いかな・・だからたまにしか会えなくなっちゃうね・・」

薔薇色の世界がピシッとひびをいれて
ガラガラと音を立てて崩れるのが本当に聞こえるようだぅた。
目の前が真っ暗になる
姉ちゃんと会えなくなる・・・その時の僕にとって唯一絶対とも言える問題に思えた。
まさに生きるか死ぬかのような絶望感だった。
その後何を話してたかも良く覚えていない
思い出話みたいなことをしたような気がするが、もはや僕は何一つ頭に入ってこなかった。
その日家に帰ってベットに入ると無性に泣けてきてしまった。
その時は経験してなかったけれど、まるで失恋した気分だった。

僕がどうこう言っても意味は無く、姉ちゃんは希望通りの大学に受かり
春からの人生初の一人暮らしに胸いっぱいで旅立っていった。
お別れの時、絶対泣くと思った僕は、つまらない意地で見送りにはいかなかった。
大学合格報告の祝いの食事会が最後だった。

そこからは本当に暫くは空虚だった。
ぽっかり心に穴が開いて何を見ても何をしても心に響いてこなくて
何もかもがぽっかりあいた心のあなを素通りしていくようだった。
姉ちゃんはたまに帰ってきてたけど
僕はなんだか恥ずかしくていつも避けてた。
姉ちゃんは帰ってくると毎回僕の家に挨拶に来てお土産とか置いていくが
僕は事前に明日帰ってくるみたいな事を聞くと決まって夜遅くまで外で遊んで帰った。

馬鹿な話、意地が一周回ってこの頃はちょっとした復讐みたいな気分だった。
「自分を捨てて他所へいった姉ちゃんなんかしるか!」って・・・我ながら子供だった。
そうしていくうちに姉ちゃんの居ない毎日になれていった。
それでもずっと姉ちゃんの事を思ってたと思う、同級生の女の子に告白されたりしたけど
姉ちゃんに感じるようなドキドキを感じられなくて全部断っていた。

そしてある年の春僕の人生で二度目の衝撃を知る事になった。
ある日家に帰ると姉ちゃんが綺麗にスーツを着て我が家の茶の間に座っていた。
久しぶりに会うみどり子姉ちゃんは
すっかり社会人が板についてて、何処から見ても学校の先生だった。
こんな美人の先生なら何の教科でもいいから6時間ぶっ通しで構わないとおもった。
「ひさしぶりだねユウ君」
ああ、聞きなれた自分の名前もこの人が言うとなんて心地良い響きなのだろうか
「うん・・・」
一杯言いたいことはなしたいことがあるのに何一つまともにいえないで立ちほうけてた。
「ユウあんたもそこに座りなさい」母がやけに上機嫌だった。
「でも本当よかったわねぇw良い人で」母が姉ちゃんに言う
「はいw」

「何の話?」
「アンタはショックかもねwみどりちゃん結婚するんだって」
「え・・・・」
僕は一瞬にして姉ちゃんの方へ顔を上げた。
姉ちゃんは何処か寂しそうで幸せそうで嬉しそうで、優しそうで・・そんな複雑な顔をしてた。
「今年の6月にね・・ユウ君も結婚式でてくれるよね?」
「・・・・・・・・」
「いくわよねえみどりちゃんは我が家の娘みたいなものだものw」
母は本当に自分の娘が結婚するみたいに上機嫌だった。

僕にとっては・・いや、ずっと昔から何となく心の何処かで恐れていた事だったとおもう・・・
僕と姉ちゃんの年の差は10もある・・普通に考えたって叶わない事だ・・
でも、彼女がまだ一人でいるうちは・・一人でいるうちは望みがあると
そう思っていた・・いや、そう思おうとしていた。

しかし、ソレも空しく崩れ去ったのだった。
「ユウ君・・」
「あら・・あんた!」
「え?」
2人が僕を見て驚いて
自分がいつの間にかボロボロ涙を流している事に気がついた。
僕は凄くまずい所を見られた気がして咄嗟に立ち上がって家を飛び出した。
自転車に乗って堤防沿いを泣きながら我武者羅に走った。
僕の長い初恋は、本当に終わった。

式は滞りなく進んだ
みどり姉ちゃんは世界一綺麗な花嫁だった。
旦那さんは、同じ学校の先生だった。
新人として色々な事を学ぶうちにひかれあった。まあそんな事だった。
僕個人の批評は置いておいて、旦那さんはすこぶる評判の良い先生だった。
式には沢山の人が来ていたし、僕と同じくらいの歳の学校の生徒も沢山来てお祝いしていた。
どうやら家柄も凄く良い所のようで所謂お坊ちゃまらしい
母が「真面目で良い人みたいで本当よかったわ、みどりちゃん玉の輿だわねw親孝行だわぁ」と感心していたからよっぽどだろう
あんなに近かった姉ちゃんがいまや宇宙の彼方に感じられて
目の前で起こってるこの結婚式もなんだか遠くの銀河の出来事みたいで
全く現実感が無かった。

ソレから数年、僕もようやく高校を卒業して大学生になった。
時々実家に旦那さんと一緒に帰ってくる姉ちゃんを見かけたけど
僕は進んで声をかけたりする事はしなかった。
みどり姉ちゃんは僕を見かけたら必ず声をかけてくれたけど
僕の方は適当に挨拶してさっさとその場を離れた。
姉ちゃんはなんだか寂しそうにいつもソレを見送ってくれてたと思う・・・
もう、すっぱり諦めてたはずなのに・・
そうやって僕を見送る寂しそうな彼女の顔を思い描くとなぜか心臓が潰れそうになった。

大学生になっても僕は彼女と呼べそうな子を作らなかった。
友達として何人も仲間は居たけど、特定の子と特別親しくはならなかった。
当然告白もされたけどやっぱり心は動かなくて
ためしに付き合ってみてと熱心に言われて付き合ってみたが
僕のつれなさに相手がだめになっていくだけだった。
女の子と居ても特別浮かれたりせず余り進んで喋らない僕はいつしか
硬派とか硬派君とか皮肉半分茶化し半分で言われるようになった。
寡黙な男ってのは憧れられる事はあるが、実際今時の子はそんな男退屈なだけだろう
「お前顔は良いけど女の子に冷たいわ」
合コンで人数あわせにたまに呼ばれ付き合いで行くたびに友達にはそういわれる
「岬君って人を好きになったことあるの?」一度ふった子にそう言われた。
仕方が無いよ・・今も昔も僕の心はたった一人への気持ちで一杯だったんだから

そうやって大学生活を送り就職した。
地元で結構有名な企業、父親のコネもあったが恥ずかしがってる場合ではない
今時仕事にありつければ文句は無かった。父にもそう言われた。
「むしろ世話してやれる甲斐性があってよかったよ」
父のその一言で僕はどんなに辛くても仕事を諦めなかった。
新人だから覚える事も多く、ましてや父の顔を潰すわけに行かない・・・
「あいつは親のコネだ」と後ろ指を差されたくなくて必死だった。
毎日が矢のように過ぎ去っていった。

ある日仕事が終わりクタクタで実家の玄関の戸をあけようとしたら
丁度戸が開いて姉ちゃんがでてきた。
「姉ちゃん・・・」
「ユウ君・・・」
姉ちゃんが出てきたのに驚いたのもあるが
姉ちゃんの顔は今さっきまで泣いてたみたいに真っ赤だった。
涙の後もあってどうしたって普通ではなかった。
姉ちゃんは僕の反応をみてソレを悟ったのか顔を隠すようにして自分の実家へ入っていった。

「なんした!?」
僕は姉ちゃんに言えなかった分
実の母に当たるように言った。
「姉ちゃんないとったぞ!!」大学生活と社会人生活ですっかり標準語が身に付いたが
こういうときはなまり全開だった。
「何、帰ってくるなり大声上げて、みどりちゃんに会ったの?」
母は落ち着いていた。
「なんで、ないてんの?」
まさか母が泣かしたわけじゃないだろうが・・・
「みどりちゃんね離婚したって言いに来たのよ・・・・」
「ええっ?!」

それは凄く意外な話だった。
学生時代殆ど数年以上まともに会話こそしなかったが
ここ数年就職してからは時々短く話をするようになっていた。
旦那さんと仲良くしてるようなのはたまに実家に2人で顔を出してるのを見て知っていただけに驚きだった。
「なんで?」
「さぁ・・みどりちゃんもソレは言わなかったから・・・」
「ともかく、暫くはこっちで親と暮すから、また以前のようによろしくお願いしますって挨拶にきたのよ」
「なんだか凄く痩せてて疲れてるみたいだったから、あんたもつまんない意地はってないで、みどりちゃん励ましてやってよね」

あの真面目なみどり子姉ちゃんが離婚なんて・・
全く予想外だった・・いったい何があったんだろう・・
真っ先に思ったのは旦那の浮気だった。
良くあるって言うし、なによりあの真面目な姉ちゃんが浮気するわけがない
きっと旦那が浮気してそれで許せなくて離婚したんじゃないだろうか・・
じゃなきゃみどり子姉ちゃんが離婚する理由なんてほかにありえない

そんな事を悶々と考えていた。

みどり子姉ちゃんが実家に戻ってきてから
僕等はよく顔を合わせるようになった。
出勤前に玄関先を掃除する姿をみたりしたし
何かと心配した母が食事に姉ちゃんを呼んだりしたからだ
2人とも最初は余り話をしなかったけど
少しずつ日常会話から段々と昔のように話すようになっていった。

「昔はこうしてユウ君となんでもお話したよね」
「うん・・」
「あの頃は良かったね・・毎日が楽しくて・・・幸せで・・」
そういう姉ちゃんの目は凄く寂しそうだった。
優しいタレ目だったはずがいまは凄く悲しいタレ目に見えてしまう・・
忘れてたと思ってた気持ちがずきずきとうずくのを感じた。

「あの頃に戻りたい・・」
みどり子姉ちゃんはどこか吐き出すようにポツリと言った。

その時の姉ちゃんの顔を僕は今でも鮮明に覚えている
どこか、明日には・・いやちょっと目を離したら今直ぐにでも居なくなってしまうんじゃないか
というような影があった。
僕はソレが凄く引っかかって
ソレから毎日姉ちゃんの顔をみて暫く話をするのが日課になった。

そんなある日だった。

姉ちゃんが手首を切った・・

家に帰ると丁度家の前で救急車が走り去る所だった。
僕はソレを見た瞬間もしやと思い
丁度心配そうに救急車を送りだした母と目があった瞬間に全てを理解した。
玄関先に止めてた自転車の鍵を外し
何か言ってる母の言葉も聴かずに救急車が走った方向へ追いかけた。
この辺で大きな病院といえば一つしかない
僕はあの日よりももっと必死に、自転車が壊れるような勢いで走った。
仕事でクタクタでカバンすら重いと思ってたのが嘘みたいだった。

病院につき自動ドアが開いた所で足がガクガク震えてきた。
それは病院の奥へ行くに連れて大きくなっていった。
受付で事情を話すと直ぐに奥に案内してもらえた。
救急車で一緒に乗ってきたのだろうみどり姉ちゃんのお母さんが顔面蒼白で座っていた。
「お母さん!」
「ゆうちゃん!・・みどりが!みどりが!!」
緊張の糸が切れたのかお母さんは僕のシャツにすがるように泣き崩れた。
「姉ちゃんは!みどり姉ちゃんは?!」
「まだ解らないって・・発見は早かったから・・でも・・・」

それからの数時間は本当に長かった。
そしてもう二度と経験したくない数時間だった。

明日太陽が無くなったら?
もし永遠に昼がこなくて寒い夜のままだったら・・
どうやって僕らは暖かい気持ちになる?・・寒い・・寒い・・・死ぬよりも寒い・・・

幸いにも自殺未遂だった。
お母さんが何時もより1時間半も早くパートを切り上げて帰ってこなければ
冷たくなった姉ちゃんを風呂場で見つけたはずだと医者にはいわれた。
後々聞いたがやはりお母さんはここ数日のみどり姉ちゃんの様子が変だと思ってたらしく
出掛けの会話が妙に引っかかって仕事していられなかったらしい
僕は今でもこのお母さんの感に心から感謝している

薬で眠っている姉ちゃんは本当に死んだ人のようだった。
今すぐにでも側にいって手を強く握り締めて
本当に生きているのか確かめたい衝動に駆られた。
そして凄く凄く・・僕は初めて姉ちゃんに心から腹が立った。
元気だったらしこたまひっぱたいてやりたいと思った。
生きててくれてよかった。 よかった。

僕は暫く仕事を休んだ
とても忙しくまずい時だったが、直接の上司に事情を説明して解って貰った。
その人は、職場で一番怖い人だが、仕事ができ頼れる人だ
何よりも仕事優先・・そんな人だと思っていたが
休みたいという僕に理由を聞かずにあっさりとOKをくれた。
「お前がそんな顔で休みたいというにはそれなりの理由があるんだろう?」
鋭い眼光だった。大抵の1年生はびびるし下手すると男でも泣きが入る
「はい!勿論です!」
「じゃあ行ってこい、お前の分は俺がやっとくから」
「その代わり帰ってきたら今までのようにはいかねぇえぞ」
「わかりました!ありがとうございます!!」
職場に響くように大声でいい後ろをむいて職場皆にむかって頭をさげた。

仕事を休んだ僕は
毎日みどり姉ちゃんに会いに行き出来る限り長く彼女の側にいた。
何も話さない糸の切れた操り人形みたいな姉ちゃんのそばで、
僕は何も言わずにただ手を握っていた。

「ごめんね・・ユウ君・・仕事休んでまで・・心配かけて・・」
ある時ふと姉ちゃんが外を見ながら言う
「馬鹿・・謝るくらいなら最初からこんな事するなよな・・」
「本当だね・・なんであんな事したんだろう・・・」
姉ちゃんの手をギュッと握る
「大きくなったんだね・・」
姉ちゃんがその手に目をやる
「なにが?」
「ユウ君の手・・いつの間にか男の人の手だね・・」
「ずっと可愛いユウ君だとおもってた・・」

「姉ちゃん約束してくれよ・・もう二度とこんな事しないって・・」
「うん・・・・お母さんにもお父さんにもそういわれた・・ユウ君のお母さんにも・・・看護婦さんにも・・先生にも皆に怒られた・・・私こんなに怒られたの初めてだよ・・・ふふw」
「わ、わらいごとじゃねぇえ!!」
思わず病院だという事を忘れて大声でどなって立ち上がった。
がたっと椅子が音をたて
患者さんが何事だと部屋をのぞく
「俺がどれだけ心配したと思ってるんだ!」
「俺は姉ちゃんがもう居なくなると思ったんだぞ!!」
「その時の俺の気持ちが姉ちゃん少しでもわかるのか?!」

直ぐに看護婦さんが駆けつけてくる
「どうしました?!」
「いや・・すみません・・」
「院内ではお静かにお願いします。他の患者さんもいらっしゃいましから」
「はい・・・」

看護婦さんに謝って椅子に座りなおす。
「・・・・・・」
暫く沈黙が続く
「私ね・・赤ちゃんできないって・・言われたの・・要らないって・・言われたの・・」
また呟くように姉ちゃんが喋りだした。
「?」
「あの人・・としあきさん(旦那)とね頑張ったんだけどね・・中々赤ちゃんできなくて・・それで色々試したんだけどね・・上手く行かなくて・・」
「段々お互い疲れちゃって・・」
「それでね・・としあきさん他に女の人居るみたいで赤ちゃんできたって・・・・それでお母さん(旦那側の母)がお金あげるから 離・・しなさい・・」
最後はもう嗚咽で聞こえないくらい言葉が小さく潰れてしまっていた。

後々みどり姉ちゃんのお母さん聞いた話しだが
そもそもお母さんが妊娠し難い体質だったようだ
その性質を姉ちゃんは強く引きついでしまったようで
相性の問題もあるらしいが子宝に恵まれなかったようだ
そこへきて旦那が過ちで女性を妊娠させてしまい
ソレを知った姑がコレ幸いとそっちを本妻にしなさいと言い出し
お坊ちゃまで真面目な旦那も段々と親戚一同に説得され責任と取らねばとなったようだ
そして離婚・・・

子供の産めない嫁として立場の無くなったみどり姉ちゃんは
お金を押し付けられるようにして家を追い出されたようだ
只でさえ子供ができない事で落ち込み引け目を感じていた姉ちゃんは
コレで完全に参ってしまった。
いつも一生懸命で何事も真面目なみどり姉ちゃんにしてみれば
コレは極めて厳しい事だった。

何時までも泣く姉ちゃんを僕はずっと抱きしめている事しか出来なかった。

ソレから数日して姉ちゃんは退院できる程度に回復して自宅にもどった。
もう馬鹿な事はしないと本人は言っていたがそれでも心配なので
うちの母とお母さんが交代で見張るようになった。
僕も仕事に戻ったが休みは勿論昼も出来るだけ姉ちゃんにメールを送った。
できるだけ関係ない、日ごろの事を書いたメール
昼は何を食べたとか、休みは何をするとかそんなやり取りだ

勿論仕事が終わって休みの日はずっと一緒だ
何かと理由をつけて姉ちゃんを連れまわすことが増えた。
姉ちゃんはまだ何処か寂しそうな顔だったけど
僕が面白そうな事を言えば面白そうに笑顔を作る程度には元気だった。

「ユウ君も私のせいでこんなに迷惑かけてごめんね・・彼女とか嫌がるでしょ?」
ある時姉ちゃんが言う
「俺彼女居ないよ」
「でも・・・」
「居ないよっていうかいた事無いよ俺」
「嘘・・私に気を使ってくれなくて良いよ・・」
あからさまにうそ臭いと思ったのか不機嫌になる姉ちゃん
「嘘じゃないよ」
「だってユウ君結構モテタじゃないバレンタインデーだって結構毎年・・」
「どれだけモテるとかってそんなに大事?」
僕はいい加減何だかいい様のない、長年ためてきたストレスのような物を感じた。
「例え100人に好かれたってたった一人好きに成ってほしい人に振り向かれなきゃそんなのいみなくね?」
「・・・・・・・」
勢いで言って「しまった!」と思った・・・旦那と離婚した今の姉ちゃんにはキツイと思ったからだ
「ごめん・・・」
謝る僕
「ううん・・そうだね・・ユウ君の言うとおりだね・・良く解るよ・・私こそごめん・・」

「ふふ・・2人とも片思いだね・・・」
2 人 とも 片 思 い 
その台詞を聞いてまだ旦那への気持ちがあるんだなと感じる・・

「姉ちゃん・・」
「なに?」
「俺はあきらめてねーぜ・・片思いだ何て諦めてない・・」
「そっか・・」
姉ちゃんは少し寂しそうにそういう
「わかってねーな」
「え?」
そういうと僕は姉ちゃんを両手で抱きしめる
「ちょwユウ君なに?w」
姉ちゃんの軽いからだが少し浮く
「俺絶対姉ちゃんを俺の嫁さんにするからな」
「は・・え?」

「姉ちゃんはわかってないかもしれないけど、姉ちゃんが大学行く時すげぇつらかった!」
「毎日幸せだったのに姉ちゃん居なくなって死ぬほどつらかった!」
「俺が嫁さんにするつもりだったのに姉ちゃん結婚して俺は本当に悔しかった!!!」
「俺はずっとずっと!姉ちゃんが好きだった!」
「ちょ!ユウ君こんな所でなにいってんの・・・」
姉ちゃんがキョロキョロする
「姉ちゃん!!」
「!!!」
急に至近距離で怒鳴られてビックリして目をぱちくりする姉ちゃん
「死ぬくらいなら俺の嫁になれ!!」
「子供なんか要らない!いや、俺が絶対孕ます!!!」
「俺は姉ちゃんじゃなきゃ絶対結婚しない!俺の母ちゃんにも迷惑かけたんだから、俺と結婚して老後の面倒一緒にみてくれ!!」
我ながら凄いめちゃくちゃ言ったと思う

結局その時は答えはもらえなかったでも、僕は言いたかった。

子供が作れない事は勿論、単純な歳の差・・・今まで姉弟のように過ごした時間
行き成り僕を男としてみて欲しいなんて無理だとわかっていた。
それでも・・僕はもういやだと思った。
あんな思いもこんな事も全部もう二度とごめんだと

僕が一番好きな人は世界で一番幸せでなくちゃダメだ
姉ちゃんを無理やりにでも僕のものにして
僕の手元で世界一幸せになってほしいと狂おしいほどに思っている
僕はそう最後に言ったと思う

そうやって勢いで告白してからも
休みの日や仕事が終わった後は2人で過ごした。
どっちからというわけでもなく昔のように2人でTVをみたりして過ごす。
両親もそんな僕を見てもう解ってるようだった。
ある日母が僕に言った。
「ユウ、アンタが選んだ人なら私は誰でも良いからね」
僕は無言で頷いて自分の部屋で泣いた。

僕はその言葉をその夜姉ちゃんに話した。
姉ちゃんはボロボロないて「本当に私で良いの?わたしなんかでいいの?・・」と繰り返した。

その日初めて女性を抱いた。
何も解らない僕を昔のように・・優しく抱いてくれた。

本当に
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も

夢に見た事だった。

指も胸も首筋も白い肌も唇も髪も耳も何もかも全てが夢以上だった。
何度も果てた、僕は何度でもできた
初めて彼女の中に入って抜くまで何度果てたのか解らない
そんな僕に彼女は応じてくれた。

「みどり子・・・愛してるずっと愛してたずっとこうしたいと思ってた。」
強くなりたかった早く大人になりたかった・・
遠すぎる君をやっとこうして側に感じることが出来る
「ユウくん・・・ありがとう・・愛してくれてありがとう・・・」
「ずっと側に居てくれる?」
「ああ」
「ずっと愛してくれるの?」
「もちろん」

君が居ない辛さは僕はもう十分に知っているから

終わり

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