その日、着流しに編み笠という浪人姿で「ふらり」と巡回にでた長谷川へぇ蔵に、
密偵である子房の粂八が何気なく近づき、「ちと、お耳に入れたいことがございまして」と、言った。
二人は軍鶏鍋屋「五鉄」に連れ立って入り、奥の部屋に腰を下ろし、酒の膳が運ばれると、へぇ蔵は子女に、
「ちょと話がしたい。
呼ぶまで誰も来ないでくれ」と言い、懐に包んであったこころづけを渡した。
呼ぶまで誰も来ないでくれ」と言い、懐に包んであったこころづけを渡した。
「昨晩、酒をちょっとひっかけまして、いい心もちで本所の通りを歩いていましたら、その、
抜き場から立派な身なりをしたお侍様が出てくるのを見まして・・」
抜き場とは「千摺り所」の別称である。
卑猥な浮世絵やら紙芝居やらが揃えてあり、湯殿もある。
卑猥な浮世絵やら紙芝居やらが揃えてあり、湯殿もある。
独り者の同心・木村忠吾などは「はっはっ、それはなかなかに乙な・・」などと申すような場所である。
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