「人豚」というのは昔の中国の刑罰です。あるお后が恋仇に復讐するために、手足を切り落とし、目をくり抜き、舌を抜いた上で、便所に監禁して人糞を食べさせながら、豚のように飼った、というものです。
私は人豚の事を知って、心が震えました。これこそK子に相応しい刑罰だと思ったからです。K子は同じ会社の同僚で、私が思いを寄せていた男性を奪い、上司に色目を使って、役得の多い楽な仕事を独占するゲス女でした。また、邪魔になりそうな女子の悪い噂を捏造したり、あからさまな嫌がらせやイジメをする、人間のクズです。そんなK子の被害を受けた女子は少なくありません。
ある週末、有志女子が密かに集まり、K子人豚化作戦の計画を練りました。手足を一度に切断すると、大量失血でショック死するから、時間をかけて切らなきゃダメだと、看護士経験者がアドバイスしてくれました。目をくり抜くのは技術がいるから、塩酸などを使って目を潰す方がいいとか、舌を下手に抜くと窒息死するので、舌のどこを切れば言葉を発せなくなるかを研究しました。
最大の問題は人豚にしたK子を監禁する便所の確保と、K子そのものを誘拐する方法でした。考えた末、その道のプロに渡りをつけるのがいいのでは?という事になり、そういうプロを知ってそうな人を探す事にしました。
私たちが見つけたのは、宝石箱を営む遠藤さんという人でした。情報によれば遠藤さんは宝石商という表の顔とは別に、違法な物も売っているそうです。
計画を聞かされた遠藤さんは、これを本当にやったら、君たち、懲役25年は食らうよ。ペーパープランの遊びだけにした方がいい、或いは特殊メイクのできるプロダクションに、この内容のホラー映画を作ってもらうくらいに留めてはどうかな。そもそも、こんなハードな事ができるプロは国内にはいないよ。
それを聞いた有志の一人が、海外だったらできるんですか?と遠藤さんに聞きました。遠藤さんは、詳しい場所は言えないが、東南アジアのある地域は、警察も政府軍も入れない無法地帯だ。そこの連中なら、やり方を指示して金を出せばやるかも知れない。そこで撮影されたビデオを見るだけなら、君たちの手も汚れなくて済むかもしれない。
私たちは計画を修正して、幻の宝石が格安で買えるツアーをでっちあげ、遠藤さんがK子を無法地帯に連れ出し、後は現地ゲリラが刑を下す、という内容にしました。K子は案外簡単にこの話に食いつき、遠藤さんと共に東南アジアに旅だちました。
私たちは日本人OLが、東南アジアで行方不明、というニュースを心待ちにして過ごしました。しかしいつまで経っても、そのような報道はされません。何が手違いがあったのか、心配になってきた矢先、ビデオが届きました。
私たちは集まり、ビデオを見ました。最初の方はK子が東南アジア旅行を楽しんでいる映像ばかりで、見ているとイライラしてきました。今か今かと待つうちに、画面が突然変わり、辺鄙な山村で銃を持ったゲリラたちが登場し、私たちは歓声をあげました。
もう刑が執行されたのか、K子の姿は見えません。目を凝らして見ていると、ゲリラたちが人間の首を切り落としている画面に変わりました。完全に胴体から切り離された首は遠藤さんの物でした。そして画面に登場したK子はゲリラに混じって、大きな山刀を持っています。K子は画面を見ている私たちに向かって不敵に笑いました。次はあんたらの番だよ。
きゃああああああ!!!
私たちは悲鳴を上げました。どんなホラー映画よりも恐ろしい物を見てしまったのです。したたかなK子は、計画に感づき、遠藤さんを出し抜いた後、ゲリラに処刑させたのでしょう。
ゲリラたちもK子の悪の素養に共感したのかもしれません。画面の様子では、既にK子はゲリラたちを完全に掌握している様でした。悪は悪を知る、の言葉どおり、K子は本物の魔性の女でした
私たちは甘すぎた自分たちを呪い、今にもやってくるかもしれないK子の幻影に震え上がりました。警察に助けを求める事もできず、ある者は発狂し、ある者は電車に飛び込みました。私は家にこもり、外との接点を絶ち、一日中祈祷を上げました。家族は私の気が触れたと思ったようです。本当に気が狂えば楽になったかもしれません。私は憔悴し、ついに救急車で搬送されるまでになりましたが、その途中、救急車はトラックに側面衝突され大破、私は路上に放り出されて、後続の車に轢かれました。
瀕死の重傷を負った私は、両足を切断する大手術で命をとりとめました。その事故で両目と声帯を失いました。
両手が助かっただけでも幸運だと言われましたが、生きる望みを失った私は、廃人のようになりました。
事故から数年後、リハビリにより何とか生きる望みが出てきた私は、かつての平穏な日々を取り戻しはじめました。ある日、久しぶりに見舞い客が来ました。聞き慣れない足音です。誰ですか?と筆談で聞く私に、悪魔のような声が言いました。
まだ両手が残っているね。
K子が大きな山刀を私の手に当てました。、