梅雨が明けたばかりの、うだるように蒸し暑い夜だった。
バイト先からの帰り道。
その日はちょっと残業になって12時を回っていた。
とはいえ家までは徒歩で15分ほどだし、ずっと大通りでコンビニも並んでいるので、それまでも最終バスを逃した日は歩いて帰っていた。
もちろん夜中に女が一人で歩いていたら、車から声を掛けられることもあったけど、無視していればすぐに走り去ってしまうので、わずらわしさはあっても、怖いと感じることはなかった。
だからその夜、「どこまで行くの?」と声を掛けられたときも、またかと思っただけで、車のほうを振り返りもせずに歩き続けた。
なのにその車は走り去るどころか、行く手を塞ぐように歩道に乗り上げてきた。
私はビックリして、その時初めて車に目をやった。
茶髪やら刈り上げの、いかにも軽そうな男達が3人、車の中から私を見ている。
「遠慮しなくていいんだぜ。
送ってやるから乗ってけよ」
送ってやるから乗ってけよ」
その強引さと3人の雰囲気に恐怖と嫌悪感を覚えた私は、車道に出て車の後ろに回り込み、コンビニ目指して一目散に駆け出した。
後ろを振り返る勇気はなかった。
店内に飛び込んで陳列ケースの陰に身を潜めた。
こんなことがなければ、とうに家に着いていたのにと思うと腹が立ってくる。
10分以上もそうしていて、もう大丈夫だろうと店の外に出た私は、行く手にさっきの車が止まっているのを見て、立ちすくんでしまった。
後から思えば、コンビニの店員に事情を話して警察を呼んでもらえばよかったのだ。
でもその時はあまりに大袈裟すぎるような気がして。
とはいえ、もう一度車の横を通る勇気はなく、仕方なく私は数百メートルの距離だけどタクシーに乗って帰ることにして道路際に立った。
その時、そんな私の前に、タクシーではなく普通の乗用車が止まった。
私は一瞬身構えた。
「すみません、◯◯駅にはどう行ったらいいんでしょう?」
緊張が一気に緩んだ。