蒸し暑くて夕立が来そうな天気だった。
何気なく本屋の入り口を見ると、同じ学校のY美が店の前に自転車を止めた。
(あ、Y美だ・・・)
声を掛けたが、聞こえないのかそのまま店に入って行った。
帰るつもりだったが、薄いピンクのブラウスを着たY美の私服が可愛くて(普段の制服姿以外見てない事もあり)、気が付くと俺も店に入っていた。
で、Y美はかなり話し難いタイプ。
背が高くて、男からかなり人気があった。
俺はたまたまこの夏の公開模試でY美の隣になり、中3になって初めて会話した程度の仲でした。
店に入ってざっと見渡す。
客はあまり居なかったので、すぐY美が見つかった。
女性ファッション誌の通路をY美が物色している。
俺は対面側の通路を通り、Y美が止まった辺りで本を探すふりをしていた。
実際、最初のタイミングを外すと、俺から話し掛けるのはかなり難易度が高くて、会話を続ける自信が無かった。
Y美に見つけて貰って、向こうから声かけてくれないかな?
そんな事考えてたら、Y美は俺の横をすっと通り過ぎ、CDコーナーの方へ移動して行った。
俺は、店の隅にある鏡でY美を追っていた。
Y美は、DVDを取ってそのまま移動し始めた。
Y美はそのDVDをトートバッグに入れると店の出口の方へ向かって歩いている。
俺もY美が通った後をトレースするように移動した。
Y美が盗ったのは洋画のエロいDVDで、棚に空白があったので見間違いじゃなかった。
出口を見るとY美は店を出て自転車に乗ろうとしていた。
俺も慌てて店を出た。
(店員から声掛けられるんじゃないか?)
自分が万引きしたみたいにドキドキしてた。
実際Y美が万引きするなんて信じられなかった。
Y美の後を全速力で追いかけた。
300mぐらいは離れていたけど、一本道なので見失うことは無かった。
前の信号が黄色になってY美が止まった。
万引きの事、どう言おうかとも思ったが、その時は正義感が勝ってたのか、僕はY美の横に自転車を止めて、冷静を装うように声を掛けた。
Y美は、「あ・・・」と声を漏らしたが、至って普通だった。
「秋山君、家こっちなん?」
「いや、ちょっと遠出」
そんな言葉を交わしたが続かない。
俺から出てきた言葉は、「今、俺、本屋で見かけて・・・追いかけたん・・・」だった。
「あ、雨きそう」
Y美がぼそっと言ったそばから、雨が振り出した。
近くにある、かなり大きな神社の境内に僕達は自転車を止めた。
人は疎らで、バスの待合室に入り雨宿りを始めた。
待合室の扇風機をつけたが凄く蒸し暑かった。
外は土砂降りで会話もままならなかった。
Y美は、バッグからティッシュとハンカチを出すと俺にティッシュを渡してくれた。