思い出の白い紐[第2話]

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思い出の白い紐[第2話]
翌日の学校はいつもと変わらぬ日常があった。

M美は女友達と一緒にいつものようにはしゃいでいる。

俺一人だけ、心ここにあらずだった。

放課後のグラウンドで上半身の筋トレを終えると、念のため仲間に「今日は医者に行く」と嘘をつきグラウンドを後にした。

教室に向かう途中、閃いた!

(そうか、これはドッキリカメラなんだ。秋の文化祭にでも出品するつもりなんだ・・・。教室に入るとクラス中の女子が大笑いで俺を迎えるってわけだ)

こうなると俺の頭は回転する。

どのような状況でどのように切り返すか、あらゆるシュミレーションを試みる。

すっかり準備が整い、教室のドアを静かに開けた。

静まり返った教室の片隅にM美が一人佇んでいた。

俺は状況が飲み込めずに心の中であたふたしていると、M美が唐突に口を開く。

「あのね、昨日ケーキ買ったの、あとね、紅茶も買ったの。M美の家に来る?」

「あ、ああ」

俺は全く状況が飲み込めないまま、とりあえず部室に着替えに戻り、校門で待ち合わせをすることにした。

校門からちょっと離れた場所にM美はいた。

俺が近寄るとニコっと笑い駅に向かって歩き出す。

駅までの道すがら、電車の中で聞いた話をまとめるとこうだ。

M美のお父さんは1年前から海外へ単身赴任しているため、お母さんは習い事をしたり、趣味の映画鑑賞や舞台鑑賞に明け暮れる日々。

兄は地方の大学に進学し、夏休みの帰省が終わり大学へ戻った。

M美は自分の部屋で男の子と一緒にケーキを食べることと、男の子が乗る自転車の後ろに乗るのが夢であり、今日はその夢が二つとも叶うと喜んでいた。

俺は肩透かしを食らったような、ホッとしたような複雑な気持ちだった。

M美の地元駅の自転車置き場へ着くと、嬉しそうに自分の自転車の鍵を俺に渡す。

M美は「わーいわーい」とはしゃぎながら俺の後ろに横座りし、俺の腰に手を回す。

自転車を漕ぎだすとM美は「嬉しい~楽しい~」を連発する。

それだけならいいのだが、背中にM美の柔らかい二つの胸がふわりと当たる感触に、またまた困ったことになってしまった・・・(勃)

いきなり「硬いんだね」と、冷や汗が流れるような発言をするM美。

すぐにサッカーで鍛えた腹筋のことだと判り、ほっとするのも束の間、「今度は後ろに立って乗りたい」と言い出した。

一旦道端で自転車を止めるとM美は右足を荷台にかける。

スカートの奥に一瞬白いものがチラリと見える。

俺のドギマギを見透かしたように荷台に立ち上がり、俺の肩から首にしがみつくと、さっきよりも強烈にM美の胸が背中に密着した。

M美の家に着く頃にはサッカーの試合を終えたような疲れを感じていたが、その疲れは今までに経験したことのない心地良い疲れだった。

美の家はとても立派な築三年の一戸建てだった。

中に入ると、まるでモデルルームのように整然とした空間が広がり、いくら母娘二人だけの生活とはいえ、片付き過ぎている感は否めない。

我が家とはエライ違いだな・・などと辺りを見回していると、「こっちがM美の部屋だよ」と手招きする。

一緒に部屋に入ると壁に見慣れた白い布地がかかっている。

(あの水着だ!)

同時にM美も気付き、慌ててハンガーごと引ったくるように胸の前に抱え洋服ダンスに押し込む。

「見たなぁ」とおどけた様子で軽く俺を睨むも、すぐに「お茶煎れるからまっててね、あ、タンスの中見ちゃダメだよ、下着も入ってるんだからね」と言い残し部屋を出ようとする。

俺はここまで来たら逆に精神的安定を取り戻しており、「水着、着てくれるんじゃないの?」と軽口を叩いてみた。

「着る訳ないじゃぁ~ん」

谷底に突き落とす一言を残し、部屋を後にする。

洋服タンスへの欲求は高まる一方だが、ここまで来てM美の信頼を失いたくない気持ちが勝り、なんとか踏み止まった。

それにしてもぼんやりM美の部屋を眺めて見ると、想像していた女の子の部屋とまるで違っていた。

最近の新築らしく収納スペースがふんだんにあるのだが、それにしても整然としている。

まるで外国映画に出てくる部屋のようだ。

ぬいぐるみがそこかしこにあり、テーブルの上には化粧品などの男には理解出来ない小瓶の類いが散乱してるものと信じていただけに、現実のギャップに驚くと同時に、M美の意外な一面を垣間見た気がした。

「ドア開けて~」

部屋の外からM美の声が響く。

ドアを開けるとお洒落なトレイを両手で抱えたM美が立っていたので、M美からトレイを受け取る。

M美は背の低いテーブルをベッドの脇に寄せると、「ここに置いてね、座るとこないからここでいいよね」とベッドに腰掛け自分の横を指差した。

ためらっていると返っておかしな雰囲気になりかねないので、平静を装いM美の座るベッドの横に並んで腰掛けた。

トレイの上にはティーカップが二つと、イチゴをちりばめたケーキが二つ並んでいた。

ふと、汗と泥とむさ苦しい野郎どもに囲まれたここ数年を思い出し、吹き出してしまった。

M美に話すと笑いながら「Y君もたまにはお休みしなさいって神様が怪我させてくれたんだよ」と言い、「こういうの楽しい?」と尋ねられた。

「おお、もちろん楽しいよ。出来ることならこのままずっと怪我してたいな・・・ま、10月入ったら完全復帰予定なんだけどね」

「10月かぁ・・・」

M美の視線は宙を彷徨い、言葉の真意が理解出来なかった。

ふと沈黙が続き、M美は意外な言葉を口にした。

「あのね、あのね、あの水着、着ないとダメ?」

わずかに頬が紅く染まっている。

そ、その雰囲気でその言葉・・・。

(それは俺に『水着を着ろ』と言わせたいのですかぁ???)

・・・と、いつも通りパニクり始め、そして例によって例の一言しか口に出ない。

「あ、ああ」

弾かれたようにM美は立ち上がり、洋服ダンスを開けると、あの白い布地と紐を胸の前で丸め部屋を出て行った。

俺は状況が把握出来ず痴呆のように呆然としていた。

時間にして僅か4~5分のことだったとは思うが、ひどくゆっくりと時が流れていた。

再びゆっくりとドアが開く。

M美の気持ちを代弁するかのように少しずつドアが開く。

完全に開かれたドア・・・。

部屋の入り口にグラビアの中のM美が立っていた。

<続く>

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