続・新妻絶頂

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続・新妻絶頂

電話が鳴ったのは、一週間分溜った洗濯物を干し終わった時だった。
 よく晴れた土曜日である。美佳の銀行も健介の会社も週休二日だったが、健介は仕事が残っているからと言って午前中に出かけてしまっていた。今日はどうしても家にいて欲しかったのだけれど、そういえば婚約したばかりだった去年の夏も、健介は土日返上で働いていた。年に一ヶ月のことだから、仕事だけなら我慢しなくてはいけないのだろう。
しかし今日はその上、学生時代の先輩の結婚式の二次会があるとかで、帰りが遅くなるという。美佳はそれだけでも欠席して早く帰ってきて欲しいと頼んだのだが、健介は例によって柔和な口調で拒んだ。
 「そうもいかないよ、なるべく早く帰って来るようにはするけど。ごめんな。」
「でも毎日遅くて疲れてるんだし…。」
「ああ、大丈夫だよ。ずいぶん実家にも帰らせてもらってるし。」
「そんなにここに帰るのが疲れるの?」
「そういうんじゃないよ。仕事は遅いけど、寝る時間はきちんと取ってるから大丈夫、ってこ と。」
「そう…じゃあ、できるだけ早く帰ってね。」
そう言って一応納得した美佳だったが、かなり不満の残る表情をしていたはずだ。健介も少し気になったようだったが、そのまま出かけていった。
電話はその健介からだと思って、美佳は明るく受話器を取った。
「はい、武田でございます。」
無意識に時計を見ると、午後の二時を過ぎていた。
「ふふふ…美佳か。」
健介の声ではない。
「…え…あの…」
一瞬、背筋がぞくっとした。
「どちら様ですか?」
「俺だよ、『ブルージュ』のマスター。」
「あ…」
どうしてここの電話番号がわかったのだろう。
(住所も、名字も知らないはずなのに…。)
電話の向こうにマスターの不敵な笑みがあるのを美佳は思った。
悪夢の中でのことのような喫茶店での出来事から、三日が経っていた。
あの夜、二度の絶頂に達した美佳は動くことができなかった。ソファーに全裸のままぐったりと横たわっていた美佳に、マスターは、「また今度な。」とまるでもう自分の恋人に対してのように言った。美佳は気だるそうに頭を少しだけ持ち上げ、小さく首を振った。
「もう、来ません…。」
怒るかもしれないと思ったけれど、マスターはただ笑っていた。

翌朝、目が醒めたとき、美佳はそれが本当に悪夢の中のことであったような錯覚に囚われた。
あまりにも現実から遠すぎる出来事だったために、事実として認識することができなかった。美佳は普段通りに勤め先である銀行に出勤した。
その夜に、健介は帰って来た。
彼は前日の電話でのことを詫び、美佳も素直に謝った。健介はいつものように美佳に優しくキスをして、抱きしめてくれた。その日こそすぐに二人は眠りについたが、翌日の夜には健介も比較的早い時間に帰って来てくれ、二人は抱き合い、愛し合った。そして美佳はあの悪夢のことなど忘れてしまうことができるように思っていた。
がその悪夢の世界へ美佳を引き戻す電話が突然にかかってきた。美佳の心臓は高鳴った。
「今から店に来ないか。」
マスターはあの時に美佳が言ったことなどまるで忘れてしまっているようだ。
「もう行かないって言ったと思いますけど。」
美佳はできる限り感情を抑えて言ったが、うまく呼吸ができず息苦しい。
「まあ、そんなに冷たくしなさんな。旦那さん、留守なんだろう?」
「ど、どうしてそんなこと…だいたい電話番号だって…。」
一つだけ、思い当たった。
「尾けたんですか?」
声に思いきりの非難を込めた。
「ははは、そんなことはしないさ。狭い町だからね。」
「と、ともかく、行きません。行くわけがないじゃないですか。」
「へえ…。旦那さんにこの前のこと、話してもいいのかい?」
「そんなこと、あの人が信じるわけありません。」
美佳は毅然として答えた。私達は愛し合い、信頼し合っている、という自信がある。美佳が必死に否定すれば、健介が町の喫茶店のマスターが言うことなど、信じるわけがない。そもそも、美佳に媚薬を飲ませて犯したマスターの行為は立派な犯罪である。マスターだって、健介に知られては困る筈だ。
「ははは、試してみるか?…」
だがマスターはどこまでも余裕がある。美佳は気押されて黙った。
そして次の瞬間、美佳は衝撃のあまり受話器を取り落としそうになった。マスターの短い沈黙の後、受話器の向こうから信じられない音が聞こえたのである。
『マスター…お…犯してっ…!』
『…気持ちいい…どうかなっちゃいそう…!』
『私…こんなの初めてっ…!』
それは媚薬を飲まされ、マスターに凌辱された美佳が思わず発した、あられもない喘ぎ声だった。
「最初から最後まで、全部きれいに撮れてたよ、ビデオにね。」
「ビデオ…?」
「あの部屋にはね、カメラが仕掛けてあるんだよ。ちょうどあのソファーが映るようにね。クックックッ…思い出すだろう…ぐしょぐしょに濡らして…」
「やめてっ!やめて下さい…。」
「じゃあ、待ってるから。ちゃんとお粧しして来るんだぞ。」
電話は一方的に切れた。
(…そんな…)
美佳はその場にしばらく呆然と立ちつくしていた。定かでない記憶を懸命にたどっていく。あの夜、あのソファーの上でマスターに命じられるままにしたこと…。服を剥ぎ取られ、後ろ手に縛られ、大きく脚を開かされて…。
(あそこを舐められて…それから…マスターの…)
唇にマスターのグロテスクな性器の感触がよみがえる。
背筋に冷たい悪寒が走り、同時に今、電話で聞いたマスターの言葉の意味がわかった。わあん、という耳鳴りが襲ってくる。
(…ビデオ?…あんな姿をビデオに撮られてた…ってこと…?)
脚を開いた全裸の姿。震えていた腰。マスターの男根をしゃぶった唇。その男根を迎えるためにきっと光るほどに濡れていたであろう蜜の泉。そしてマスターを求めて口走った言葉…。今まで夫にも見せたことのない恥態であった。というよりも美佳自身が、感じたことのない大きな快感の渦の中で自分を失い、乱れてしまった。
それだけではない。痴漢に触られて感じてしまったことや、家に帰ってから自慰に眈ったことまで、告白させられてしまった。
(た、大変だわ…!)
そんなビデオを健介が観たら…。息が止まりそうだった。
「返してもらわなきゃ…。」
美佳は決心して服を着替え始めた。だがTシャツを脱ぐとじっとりと汗ばんだ肌が気になって、美佳はバスルームに入った。シャワーを浴び、髪を洗った。
(落ち着かなきゃ…。)
まだ心臓の鼓動が速く、どきどきする。
美佳は犯されたのだ。それも媚薬を飲まされ、縛られて辱しめられた。そして今それをネタに脅迫されている。
店で美佳が来るのを待っているマスターはきっと、あの逞しい体でまた美佳を犯そうと思っているのに違いない。
それが美佳にとって何よりも恐怖だった。マスターの愛撫は、若い健介の仕方とは、まるで違っていた。初めて体験した『愛のないセックス』は、美佳にとってあまりにも衝撃的な出来事だった。
健介の前に一人だけ、学生時代につき合っていた恋人と美佳は結ばれている。だがその恋人もまた学生で、自分が達すればそれでいいというやり方だったし、まだ充分に快感というものがわからなかった美佳には、多少苦痛を伴うものでさえあった。その後、美佳はデートのたびに求めてくる恋人が疎ましくなって別れている。
そんな美佳が、初めて知った大人の男、そして生まれて初めて本当の女の悦びを教えてくれた男。それがあのマスターだったのだ。
(もう一度マスターに抱かれたら…)
自分はどうかなってしまうかもしれない。
(なんとか、それだけは…)
でもどうすればいいかわからなかった。シャワーを浴び、88-58-90の見事なプロポーションを鏡に映しながら美佳は思いを巡らせた。
ビデオを渡して欲しいと必死に頼めばそれで渡してくれるだろうか。
そんな相手ではないと思った。こんな郊外で喫茶店をしている人が何を考えているかなど、美佳にわかるはずがない。
たとえ返してくれるにしても、マスターはビデオとの交換条件として、きっと美佳の体を要求するのだろう。
美佳はマスターの愛撫を思い出した。マスターに貫かれた瞬間の悦びを思った。薬のせいとはいえ、美佳は失神しそうになるくらい感じたのだ。
(やだ…)
美佳の中に、もう一つの思いが広がった。今、心地良いシャワーに包まれているこの白い裸身に、夫以外の男の手や舌が這い回ったのだ。あんなことをされるなんてもう二度といやなのに、心のどこかでそれを望んでいる気もする。
淫らな記憶に体の芯がポッ、と熱くなった。体を洗っていると、まるで身を清めているような気分にもなってくる。
(私…どうしちゃったんだろう…)
バスルームを出て、火照った体をバスタオルに包む。頬が紅潮し、妖しい胸の高鳴りが抑えられない。現実の世界から淫夢の中に、美佳は引きずり込まれようとしている。
「ちゃんとお粧しして来るんだぞ。」
電話の最後にマスターが言った言葉が、耳の奥に残っている。
下着を替えようとして、何気なく新しいものを出していた。ショーツもブラも純白のものを選んだ。
細かい刺繍の入った上下セットのブランド物で、ブラはフロントホック。ビキニのショーツは極端に布地が薄く、腰の部分は紐のように細い。
ストッキングも新しいものにし、クローゼットの中からは何故か一番セクシーで膝上は20センチ以上もある白いワンピースを出した。スカートの丈が短かすぎると言って健介が喜ばなかったものである。
健介は美佳が男心をそそるような服、丈が短かったり、胸元が開いていたり、体の線がわかるようなものを着ることをひどく嫌った。美佳はずいぶんそのことに反感を抱いたりもしたものだったが、最近ではむしろ夫と仲たがいをすることの方が煩わしく、おとなしく言うことを聞くようにしていた。
ベッドの上にそれを広げて、美佳は大きく深呼吸をした。
化粧台の前に座った。瞳を潤ませた自分がいる。ドライヤーで髪を乾かし、ファンデーションを塗った。結婚してからは滅多にすることのなかったアイシャドーを薄く引く。
(抱かれに行くみたい…)
マスターの鳶色の瞳に見つめられたい。口紅を塗りながらもマスターにキスされている情景がフラッシュバックのように脳裏をよぎっていく。ともするとマスターの爬虫類のような生殖器のイメージが瞼の裏に再生され、顔が熱くなる。
(だめ、いけないわ…!)
美佳は何度も大きくかぶりを振った。妙な妄想は断ち切らなくてはいけない。ずるずると言いなりになんかなったら、もっと大変なことになる。たとえすべてを健介に告白しなくてはいけなくなったとしても、最悪の場合は警察を呼んであの男の企みを潰してしまわなくてはいけない。そう思った。
前開きのワンピースのボタンを止め終えるのと同時に、再び電話が鳴った。
「もしもし…」
「どうした?来ないのか?」
マスターの声だった。別に怒っているようでもない。
「今から行きます…」
それだけ言って受話器を置き、美佳は家を出た。

『ブルージュ』の扉には「本日休業」の札が掛かっていた。中には電気もついていないようだったし、扉にも窓にもカーテンが閉められていた。美佳は周りを見回して誰も人がいないのを確かめてから扉に近づいた。おそるおそる押してみる。鍵はかかっていなかった。扉は音もなく内側に開いた。
店の中は冷房が効いて、ひんやりとしていた。そして暗かった。夏の日差しが溢れる外を歩いてきた美佳には、すぐには何も見えなかった。
「鍵を閉めて。」
奥からマスターの声がする。
美佳はその声を無視した。店の中は真っ暗というわけではないから、じきに目が慣れてくる。マスターはカウンターの中にいたが、ゆっくりとした動作でフロアの方に出てきた。
「ハッ…」
カウンターの中から出てきたマスターを見て、美佳は悲鳴を上げそうになった。マスターは上半身にこそ白っぽいTシャツを着ていたが、下半身には何も着けていない。剥き出しの股間には、どす黒い男性自身がだらりと垂れ下がっていた。
呼吸が止まりそうになって、美佳はすぐには何も言えなかった。マスターが近づいてくる。機先を制されて愕然とする美佳の前まで来ると、マスターは何も言わずに美佳の背中に手を回して抱き寄せた。
「うっ…」
すぐに唇を奪われ舌を絡めてきた。一瞬の出来事に美佳は何故か逆らうことができなかった。舌を絡まされると頭の中がじーんと痺れる。抱きしめる腕に力を入れるマスターとは対象的に美佳の体からは力が失われていく。
「いやっ!」
やっとの思いでマスターの体を押し返したが、腕を掴まれたままだった。
「会いたかったよ。奥さんは本当に美しい」
美佳の抵抗など気にも止めない様子で、マスターは存外優しい声で言った。
「やっぱりこのくらいはお洒落をしている方がいいな。一段ときれいだ…。」
マスターの視線が、美佳の頭から足先までの間を往復した。美佳はたじろいだ。
美佳の頬に手をやり、その手を少しずつ下げる。胸に触れる。
「胸だってあるんだし…。」
ワンピースの上から、グッ、と握る。それから、手は胸からお腹へ降りていく。
「ウエストは細いし…。」
さらに下の方に、手の平がワンピースの上を滑っていく。
「脚もきれいだ。」
太腿に優しく触れる。腰に手を回し、その手でヒップの双丘になぞる。
「なによりお尻が素晴らしい。」
 そしてスカートをまくりあげてストッキングの上からアソコを丹念に撫で回す。
 「なんだもうここは熱くなってるじゃないか」
マスターは美佳が気押されているのをいいことに美佳の肢体をさんざん撫で回し、それから手を取って店の奥の方へ導いた。
「ここに座って。」
フロアの真ん中にぽつんと椅子だけが置かれている。美佳は素直にそこに腰をかけた。マスターは美佳の目の前に立った。
目のやり場に困った。マスターのそれは早くもTシャツの下から首をもたげ始めていた。美佳はそれを見ないようにするためにマスターの顔を見上げた。
マスターの鳶色の瞳が美佳を見つめていた。美佳はその目をじっと見た。
「ビデオを…返して下さい。」
気力を振り絞って、美佳はようやくそう言った。
「ああ、いいよ。そのつもりだった。」
マスターはあっさりと美佳の要求を承諾した。しかも美佳が拍子抜けするほどに、涼しげな声色だった。
「だけど、ただで返すわけにはいかないな。」
当然のように付け加える口調にさえ、悪びれた様子はない。
「警察を…、呼びます。」
美佳はマスターを睨んだ。
「毅然とした表情もいいな、きれいな顔だ。脅えてる顔も、恥ずかしそうな顔も良かったけど…。」
マスターはとぼけているような、平穏な顔をしている。
(その手には乗らないわ…)
マスターはわざと平然とした表情を装って、自分のペースに美佳を乗せようとしているのに違いない。脅迫されて、言いなりになる筈の女が、警察を呼ぶとまで言っているのだから動揺していないわけがないのだ。
「また変なことをするのなら、今すぐ帰って警察に電話します。」
「そう…。それは困ったな。で、なんて言うつもりなんだ?」
「あなたに、変な薬を飲まされて、無理矢理…」
「ムリヤリねえ…。まあ、いい。無理矢理どうされたって言うのかな?」
「レ、レイプされた、って言います。」
「なるほど。ビデオが証拠になるわけだ。お巡りさん達もあんな強烈なビデオが見られた ら嬉しいだろうな。」
美佳の顔がカーッと熱くなる。
「でもビデオを見ればわかるけど俺は美佳が入れて、って言ったからコイツを突っ込んだ  んだぜ。憶えてるだろ、腰を揺すっておねだりしたの。」
マスターは自分の分身を指でつまんで、ぶらぶら揺すってみせた。
「そ、それは…あの変な薬を飲まされたから…」
「変な薬ね、警察が来てこの店を調べて、もし薬が出て来なかったらどうする?」
「それは…」
言葉に詰まった美佳の頭に、マスターは手を置いた。小さな娘に説法でもするように、優しく髪を撫でる。
「まあまあ、落ち着きなよ。いいか、考えてみな。お巡りさんだって男だ。あんなビデオ観  たら興奮するし、美佳の乱れようを見て、エッチな奥さんだと思うだろうよ。家帰ってから里 美の体を思い出してシコシコ励む奴だっているだろうし、証拠として押収した物がダビング されて署内で回されるなんて話だってよく聞くだろう。」
「そんなっ!」
美佳は飛び上がった。マスターが話す間にも、あの時の記憶が頭の中を駆け巡ってしまう。それがマスターの狙いなのだとわからないこともなかったが、どうしても記憶の方に思考が引きずられてしまう。
「そ、そんなこと…、ありません。」
「ハハハ、美佳みたいな善良な市民ばかりだったら日本は平和だろうな。」
マスターはかがんで、美佳の顔をまっすぐに覗きこんだ。
「あんな姿を他の人に見られるのはいやだろう。証拠のビデオが残るより、あれは持って  帰って消してしまった方がいい。あんな物が世の中にあるより、すっきりと忘れてしまった ほうがいいんだよ。そうだろう?…俺は何も五百万円持って来いとか、銀行の金をくすね  て来いとか、そういうことを言ってるわけじゃない。俺は美佳のことが気に入ってしまった  んだ。だから、あともう一度だけ、君を抱きたい。それだけなんだよ。」
とうとう、美佳には反論の材料がなくなった。心に絶望が広がって、涙も出てこない。
黙りこんだ美佳を見て、マスターは立ち上がった。美佳の顔に向かって腰を突き出し、欲望の象徴を鼻先に突きつける。
「さあ、舐めて…」
マスターの静かな声。美佳は黙ったまま視線を落とした。
目の前にあるそのグロテスクなものはまるで違う生き物のように、静かに眠りから醒めようとしていた。
「わかりました。そのかわり…きっと返して下さいね…。」
「ああ、返して上げるよ。だから、早く…」
美佳は観念した。たしかにマスターの言う通りだった。あんな恥態を他の人に知られるくらいなら、もう一度だけ我慢してこの男の言うことを聞いた方がましだと思った。
ゆっくりと顔を近づけていく。唇が触れる。頼りないほどに柔らかい。生臭さが立ち昇ってくる。
美佳はそれの先端を舌ですくうように舐め、口に含んだ。

「お…う…」
マスターが大きく息を吐いた。
唇と舌でゆっくりと優しく刺激してやると、それは震えながら硬く、大きくなっていく。その反応は健介のものと変わらない。
「かわいいよ…美佳…」
マスターの息使いがさらに荒くなる。頬にかかってしまう髪を指先で押さえて、美佳の顔を覗き込む。
(いや…見つめないで…)
目をつむっていても、マスターに凝視されているのがはっきりとわかる。あの鳶色の瞳が、きっと真っすぐに美佳の表情を見つめているのだ。
(ああ…変な気分になっちゃう…)
美佳は洋服を着たままで、ただ相手の欲望に奉仕させられている。しかもその相手とは三日前に自分を犯し、今は脅迫者に変貌した、本来ならば憎しみを抱くべき男なのである。
だが美佳はその屈辱的行為に不思議な陶酔を覚えてしまっていた。媚薬を飲んで抱かれた、あの夜の感覚がよみがえっていた。下着の奥が熱く潤み始める。
「口でイカせてくれたら、それ以上は勘弁してやるぞ。」
征服者の勝ち誇った声音で、マスターが言う。
(え…)
口を犯されるだけで済むならば、それに越したことはないはずなのに、迷う気持ちがあった。このまま、マスターを射精の高みまで導かずにいたら、組み敷かれ、犯される。
(それはだめ…)
もう一度この体を貫かれたら、美佳はこの男から離れられなくなる。そう思った。どうにか、唇と舌とで、マスターに絶頂を迎えさせてやらなくてはいけない。
「舌を使って…もっと吸って…そう…いいぞ…」
マスターが腰を前後に動かし始めた。喉元までそれの先端が入ってくる。美佳はむせ返りそうになりながら夢中で舌を使い、男根をしゃぶった。それは健介のものよりもわずかに短いように思うが、はるかに太く思えた。
「唾を出して、ベトベトにしながら舐めるんだ。」
美佳は口を大きく開き、唇で挟むようにしながら、そして舌を絡ませるように舐めた。唾液を舌先で塗りつけるようにすると、チュプッ、という卑猥な音が出る。マスターの肉棒は更に硬さを増す。
(ああ…マスター…)
美佳の舌の動きに、ビクン、と感じてくれる肉茎が愛おしい。美佳は首を揺すり、唇でその表面をしごくようにした。全身が熱くなる。
うっすらと目を開ける。逞しく、浅黒い肌と、ごわごわとした陰毛が、近づき、また遠のく。マスターの剛直が、深く浅く、美佳の口を犯している。
こんな濃厚な口唇奉仕を、健介にはしたことはない。健介のものを舐めてあげることがあっても、それは愛の表現であって、猥褻な行為ではない。
(ああ…でも…)
その猥褻行為に美佳は酔っている。愛撫されたわけでもないのに、ショーツがぐっしょりと濡れてしまっている。
「ん…んうっ…ん…」
鼻にかかるような甘い吐息を漏らしていた。マスターの息使いも荒い。
この勃起が引き抜かれ、乱暴に押し倒され、裸に剥かれ、そして貫かれるのを、美佳は待っていた。だが、マスターの怒帳は限界まで張りつめ、まさに爆発の時を迎えようとしている。
「美佳…イクぞっ…」
マスターはさらに息を荒げ、腰の動きを速めた。
「うっ…!」
マスターが低く呻いたの同時に、それは美佳の口の中でびくんっ、と震えた。ほろ苦く生臭い液体が破裂して、口一杯に広がった。
「美佳、飲むんだ…」
マスターは両手で美佳の頭を自分の股間に押しつけていた。健介のものでさえ精液を飲んだことなどなかったが、美佳はそれを飲みこんだ。喉でグクッという音がした。夫にしたこともない淫らな奉仕行為だった。口の中いっぱいに広がったマスターの強い雄の匂いに、眩暈を感じた。それから美佳は、射精の終わった性器を舌で清めさせられた。異臭に耐えながら舌を伸ばし、マスターの男性器を濡らしている液体を拭うように舐めた。音を立てるように命じられ、ピチャピチャと淫猥な音が出るようにした。
しばらくしてマスターの呼吸が静まっていった。
「よし…もういい。」
マスターは乾いた声音で言い、美佳から離れた。傍らの椅子にあった下着とスラックスを履き、グラスに水を注いで美佳に渡した。美佳はそれに口をつけて喉の奥の粘っこい不快感を流した。グラスはすぐに空になった。マスターはグラスを受け取ってカウンターの上に置き、それから美佳の手を握って立たせた。
マスターの手を握ったまま、美佳は先日の小部屋に連れて行かれた。美佳は素直に従った。マスターは部屋に入ると明りをつけた。
「はっ…!」
美佳は、部屋の中を見て、驚きのあまり呼吸が止まりそうになった。美佳がマスターに抱かれたソファーに、一人の若い男が座っていたのである。
二十歳前であろうか。長めの髪は茶色く、色白でニキビが多い。細い眼と薄い眉が軽薄そうで、美佳があまり好きではないタイプだ。痩せた体躯に、不良っぽい派手な柄のYシャツ。細いジーンズ。耳にピアスが光っている。
「うちのアルバイト。孝一っていうんだけどな。」
マスターは美佳の狼狽などまるで気にかけてくれない。
「どうも、孝一です。」
男は美佳に向かってぺこりとお辞儀をした。まだ少年のような高い声だった。
「なんだ、寝てたのか。」
「ええ、ちょっと、ウトウトっと…。」
「この人が昨日話した美佳さんだ。」
美佳はどきりとした。話したとはいったい何の話をしたんだろう。
「美佳、こいつとしばらく留守番しててくれ。約束の物、取って来るから。」
ビデオを本当に返してもらえるとわかって美佳は、ほっとした。
「一時間くらいで戻って来るから。」
マスターは美佳を孝一の隣に座らせた。
「じゃあ、俺は行くから。頼んだぞ。」
「あ…」
美佳に何も言う時間を与えず、マスターは部屋を出て行った。事務室のドアが閉められ、次にカチッという乾いた金属音がした。
「この部屋、外から鍵が掛かるんだ。」
黙っていた孝一が突然言った。美佳が顔を向けると孝一はニタニタと薄気味の悪い笑いを浮かべている。
「そんなに固くならなくてもいいよ。」
マスターがいなくなった途端、孝一は急に態度が大きくなった。
「美佳さん、人妻って本当?」
せめてと思い、左手の指輪ははずして来ている。美佳はどう答えていいかわからず、ただ黙ってうなずいた。
「ふーん、奥さんか。歳はいくつ?」
落着きはらっている孝一に美佳は戸惑った。まだ二十歳になったかならないかという若者とは思えない。虚勢を張っているのかもしれないが、それにしてもこの横丙な口のきき方や生意気な態度はどうだろう。
「ねえ、歳いくつって訊いてんだけどな。」
「…二十六…。」
「やっぱり大人って感じだよなあ。」
孝一は美佳のワンピースの胸元に視線をやっている。
健介が顔をしかめたワンピースは丈も短いが比較的ぴったりとして体の線がよくわかるデザインになっていた。今までは特に意識したことがなかったが、こうあからさまに見られるとやはり恥ずかしい。美佳は今さらながらこの服を着てきたことを後悔した。
「ねえ今さあ、オレがどこまで知ってるのか不安に思ってるでしょ。」
孝一は視線を美佳の太腿のあたりに移しながら訊いた。事実考えていたことを言われて美佳の胸の鼓動は高鳴った。
「全部知られてたら困るの?」
いたずらっぽい口調が耳に障る。
「…そんなこと…」
「ねえ、マスターとどういう関係?」
孝一の質問に美佳は少しほっとした。
(知っているわけではないんだわ…)
うまくごまかしてしまえれば、それに越したことはない。
「マスターは何て?」
慎重に質問を返す。
「知り合いって言ってたけど…。」
「そうよ、ただの知り合い。」
孝一はしかし薄笑いを消さない。
「でもただの知り合いが呼び出されて来るかなあ。」
「それは…お店がやってると思ったから。」
苦しまぎれの嘘とわかっていながら他に答えようがない。
「なるほど…、まあいいや、そんなこと。ねえ奥さん、マスターと寝たの?」
孝一は見上げるような眼つきで美佳の顔を見た。
「え…?まさか…」
出来の悪い生徒を持った家庭教師のような心境になってくる。
「ふーん。で、寝たこともないのにあんなことしちゃうんだ。」
「えっ…!」
「覗いてたんだよ、今。凄かったなあ、興奮しちゃったよ。」
「そ、それは…」
美佳はあまりのことに口をつぐんだ。
「あはははは」
孝一は声を立てて笑いだした。孝一の手が後ろから肩に回って抱き寄せられる。すぐ目の前に孝一の愉快そうな顔が迫った。
「知ってるよ、全部。ビデオ見たんだから…。奥さんがヤラしく悶えてる顔見ながらオナニ ーだってしたし。」
美佳の肩を掴んだ孝一の手に力がこもり、片手が胸に伸びてくる。
「あっ…」
精神的な衝撃が大きすぎて、美佳に隙があった。その隙を衝かれた。唇が奪われた。すぐにざらっとした細い舌が挿し込まれ、口の中がかき回される。
「いやっ!」
美佳は力を込めて孝一の体を押し返し、顔を背けた。
「マスターにヤラれた時はあんなに感じてたじゃない。」
孝一は美佳の耳に唇をつけて、いやらしく言う。胸を揉んでいる手が荒っぽい。
(あれは…違うわ。薬を飲まされて…)
思うことが口に出なくなっていた。耳を舐められ、背筋がゾクッとする。
「さっきだってマスターのオチンチン、おいしそうにしゃぶってただろ?」
熱い息と一緒に耳に吹きかけられる露骨な言葉に、思考が奪われそうになる。
(違うわ…仕方がなかったのよ、脅かされて…)
心の中で、懸命に反論する。
「ほんとはマスターにまたヤッて欲しくて来たんだろ?」
孝一の手がワンピースのボタンを上から二つ外した。美佳はとっさにその手を抑え、引き離した。こんな男に、いいようにされるのは我慢ができない。ドアを破ってでも、逃げようと思った。
孝一に体当りするようにしながら腕に力を込め、孝一の体を押しのける。マスターほど大柄でない孝一の体は、美佳の不意討ちに遭ってよろめいた。美佳はドアへ走った。ノブを握り、引っ張ったが、ドアはびくともしない。手に力を込め、勢いをつけて、もう一度引っ張る。しかし、やはりドアは動かなかった。後ろから肩を掴まれた。振り返ると、孝一が立っていた。薄笑いを浮かべている。
逃げ場を探して、部屋の反対側に視線を動かした瞬間、パーンと音がして目に閃光が走った。
「あ…」
頬を張られた、とわかった瞬間に痛みがやってきて、膝がガクッと崩れた。痛みはさほどでもなかったけれど、脚の力が奪われた。美佳は床に倒れた。
「逃げちゃだめだよ、美佳さん。」
孝一はかがんで、美佳の上体を抱き起こした。張り手を見舞ったことなど、気にしてもいない様子だった。だが抵抗しようとしていた美佳の意志は、その一発の張り手であっけなく奪われた。心が絶望に支配されていく。
「クックックッ…」
背後から美佳の細い肢体を抱きすくめて、孝一が楽しそうに笑った。前のはだけたワンピースをかき分けて、孝一の手が入って来る。指先がブラの布地をくぐって乳房に触れた。
「へっへっ…オレ、奥さんのことよく知ってるんだぜ。」
片手で胸を揉み、指先で乳首をコリコリと刺激しながら、片手でワンピースのボタンを外していく。
「旦那とエッチしてるとこ、よく覗くからね。」
「…えっ…?」
すぐには何を言われたのかわからなかった。
「エッチする時はさ、カーテン締めた方がいいよ。」
(なんてことなの…!)
美佳は愕然とした。健介と抱き合っている時、カーテンが開いていることがある。それはわかっていたけれど、美佳達の部屋は二階なのだし、部屋の下はキャベツ畑が広がっていて、近くに民家がない。覗かれる心配なんてないと思っていたのだ。
「オレのうち、奥さんのマンションがよく見えるとこにあるんだ。駅前の大きなマンション。  四階だからね。天体望遠鏡で覗くと奥さんの顔なんてアップで見えるよ。ヘヘ…まあ、   顔だけじゃないけどさ。」
孝一は、美佳がマスターに犯されて感じてしまったことを知っているばかりではなかった。あろうことか、美佳と夫とのことまで知っていたのだ。衝撃で気が遠くなる。貧血の時のように、目まいがした。
ワンピースが肩から剥ぎ取られる。あっ、と思ったときには両手首が取られていた。背中の後ろで交差させられる。
(縛られる…!)
抵抗する隙もなく両手首は背中に押さえつけられた。
「あっ…やっ…!」
すばやい手つきで縛られる。マスターといい、この孝一といい、こうまで慣れた手さばきで縛ることができるというのは、いったいどういう人達なのだろう。もがいてみても、手の束縛は解けそうにない。孝一が使ったのはベルトではなく、ロープのようなものだった。
「縛られるの、好きでしょ?奥さんのために用意してきたんだ。」
「い、いや…!」
「旦那にも縛ってもらって、感じてるじゃない、いつも。」
「はっ…」
美佳の心に戦慄が走る。
三ヶ月ほど前だったろうか。ある夜、本当に何気ない、ふざけ合いのようなことをしていて、健介に手首をタオルで縛られたことがある。未だ体験したことのなかった、自由を奪われる感覚があり、美佳は震え、感じた。不思議な思いだった。健介に抱かれながら、美佳は思わず腰を振っていた。
健介は美佳の乱れように驚いてはいたようだが、やはり美佳が感じるというのは嬉しかったのだろう。それからときどき、手を縛ったり、目隠しをしたりすることがあった。
「引っ越してきた頃から覗いてるけど、美佳さん、どんどんエッチになってるよねえ…。」
はるかに年下の男の、からかうような口調に、激しい羞恥を感じる。
「部屋の明り灯けたまんまで見せつけられてさ、いつか襲ってやろうと思ってたんだ。    でもマスターに先越されちゃって。口惜しかったなあ…」
ブラの上から、乳房が両手で荒々しく揉まれる。ブラのフロントホックが外され、小さな乳首が露わにされる。肩紐が肩から引き下ろされて、ブラは縛られた腕の途中に引っかかった。
「今日だってマスターに犯されたくて来たんでしょう?」
豊かな乳房が孝一の手で様々な形に揉みしだかれ、尖った先端が指先でつままれ弄ばれる。

(…違うわ…ビデオを返してもらうために…)
あまりのことに声が出ず、かぶりを振った。
「そんなツラそうな顔しないでさ、楽しもうよ。」
孝一は美佳の体を軽々と抱き上げた。
「あっ、やっ…!」
投げ出されるように、ソファーの上にうつ伏せに押し倒された。力ずくの行為に、美佳はなすすべがなかった。腰のところに引っかかっていたワンピースが剥ぎ取られる。孝一は美佳の足の方を向いて、背中の上にまたがった。孝一の体重がかかって、一瞬息ができなくなった。
尻と脚とが撫で回される。馬乗りになった孝一が美佳の尻の二つの山をギュッと握るように揉み、ストッキングの上から尻の谷間に指をくい込ませる。
「ハッ…」
薄い繊維が破かれる音がした。ストッキングに穴が開いた。その穴が一気に広げられる。ビリッ、ビリッ、と孝一がストッキングを破っている。
「いやっ…!」
強く引っ張られて、ときどき脚に痛みを感じる。だが、じきに美佳の脚を覆っていたそれは跡形もなくむしり取られて、美佳の肌の上に残っているのは、小さなビキニショーツだけになってしまった。
ショーツは、マスターへの奉仕の時に濡れたままになっている。それを孝一に知られたくない。
太腿の付け根に、孝一の手が戻ってくる。ぐいぐいと食い込んでくる。尻の肉が掴まれる。
美佳は歯を食いしばって、若い男の乱暴な愛撫に耐えた。固く脚を閉じ、敏感な部分に指先が当たるのを防ごうとした。ショーツに触られるのが、今はとても怖い。
「素直じゃないなあ。エッチなことするの、好きなくせに。」
孝一は美佳の尻から手を離して、体を反転させた。床に膝をついたまま、美佳の顔を覗き込む。不敵ににやついている。
「美佳さん、これも好きなんだよね…。」
美佳の目の前に、孝一が取り出して見せたのは黒くて光沢のある、細長い布だった。鉢巻のようなものだ。
「あっ…」
孝一はそれで美佳の目を覆った。頭の後ろで固く結んでいる。
「目隠しされると奥さんはいやらしくなるんだ…」
目隠しをされていると相手が何をしているかがわからないし、自分がどう見えているのかもわからなくなってしまう。視覚が奪われることによって、肌の感覚が鋭敏になるし、見えないことで羞恥が薄れるのか、健介と抱き合っているときに目隠しをされると、たしかに美佳は乱れてしまう。孝一はそのことを言っているのだ。
美佳は震えていた。美佳が他人には絶対に知られたくないことを孝一は全て知っている。それが恐ろしかった。
背中で手を縛っていたロープがほどかれた。ソファーの上で仰向けにされる。手首が今度は顔の前で交差するように押さえられた。再びロープが巻かれる。
「いや…」
手早く縛られた美佳の手首は頭の上に持ち上げられ、縛ったロープのもう一方の端がソファーの脚に結びつけられているようだった。孝一が立ち上がる気配がした。目隠しをされているから孝一がどこにいるのかわからない。脚まで縛られているわけではないから、暴れたりすることが出来ないわけではないのだろうが、見えないということがとても恐ろしい。さっきの張り手のショックからも、まだ立ち直れていない。
(見ているの…?)
孝一がすぐ脇に立って、美佳の裸体を見下ろしているような気がした。純白の薄いショーツの上から、うっすらと翳りが透けて見えているはずだ。
(ああ…お願い…見ないで…)
そう思ったとき、顔を両手で押さえつけられた。いきなり唇が重ねられ、すぐに舌が入ってくる。美佳の舌に絡んでくる。男性特有の臭いを強く感じた。動物的な臭いだった。唾液が入ってくる。マスターへの口唇奉仕の後だから舌の感覚は鈍っていたが、目隠しをされたまま顔を押さえつけられてキスをされていると征服されている感覚に襲われる。
美佳のそんな様子を感じ取って満足したのか、孝一は唇を離した。それからすぐには、孝一は何もしなかった。美佳はソファーに放り出されたままになっていた。美佳にはむしろそれが辛い。何もされずにいると、緊張し、不安になってしまう。ソファーの横で、孝一が着ているものを脱いでいる気配がしている。
(やめて…来ないで…)
美佳は体を固くした。今の美佳にできることはそれだけしかない。
「オレね、さっき奥さんがマスターにフェラチオしてるのを覗きながら一回出しちゃったんだ。…だからゆっくりヤッてあげられるよ。」
簡単な服装だったからあっという間に裸になれたのだろう。孝一が近くに来ているのがわかる。
「あっ…いや…」
乳首に舌が降りてきた。美佳の体がピクッと反応する。孝一の舌が美佳の豊かな胸を犬のようにペロペロと舐める。熱い吐息がかかる。乳首を口に含み、舌先で転がす。ときどき強く吸う。
「乳首、立ってきたよ、美佳さん…」
「は…あ…」
肉体の感覚が鋭くなっている。性感が刺激され、吐息が漏れてしまう。
孝一は執拗に美佳の白い肌を舐め回した。胸やお腹、太腿にも、首筋や腋にも、体じゅうにくすぐったいような感触が這い回った。木目の細かい素肌が、ねっとりとした孝一の唾液に覆われていく。
(ああ…どうして…)
この前のように媚薬を飲まされたわけでもないのに、美佳の体は憎らしいほど素直に火照っていた。鼓動が高鳴り、息が荒くなる。頭の中が痺れて、体の芯に小さな官能の炎が灯もる。腰が震え、蜜の泉が再び熱く潤み始める。
首から這い上がってきた孝一の唇が、美佳の唇に重ねられた。乳房が鷲掴みにされ、強く揉まれる。固く結んでいたはずの唇の合間に、孝一の舌が挿し入れられる。
「んっ…」
いけない、と思っているのに、舌が絡んでしまう。美佳の両脚がせつなげにうごめく。
「アソコも触って欲しいだろ。」
孝一は露骨な物言いをする。
「いや…」
乳房を弄んだ手が焦らすようにゆっくりとお腹に降りていく。ショーツの上を指先が滑っていく。
「クックッ、エッチな下着…」
形良く盛り上がった柔丘が、ショーツの上から揉みほぐされる。それからさらに下の方へと進んでいく。
「あ…んんっ!」
美佳の最も敏感な部分に指先が触れた瞬間、美佳の腰がびくん、と大きく弾んだ。ショーツ越しに柔襞の合わせ目がなぞり上げられる。
「へへ…濡れてるよ、すごく…パンティが湿ってる。」
濡れたショーツが、ぴったりと柔襞に張り付いている。そこを何本かの指の先でいじられる。刺激された小さな陰芽が固く隆起して、指が触れると大声を上げてしまいそうなほどの快感がある。
(そ…そんなこと…されたら…)
美佳は必死に声を押し殺した。
孝一の手が太腿を滑って膝の裏側を掴み、持ち上げる。美佳の脚は膝を立てた格好になった。そうさせながら孝一は体を起こしたようだ。美佳の足の方に移動している。美佳の片足がソファーから床に落ちて、太腿は半開きの格好になった。
「もっと脚を開いて…。」
膝頭の辺りから聞こえてくる孝一の声は興奮しているせいかかすれていた。美佳は羞恥に耐えながら、少しづつゆっくりと脚を開いていく。陰部への愛撫が再開される。孝一は濡れたショーツを美佳の一番敏感な部分に押しつけたり、指先で美佳の入口に食い込ませたりした。
(…見てるんだわ…触りながら…)
「…ああ…」
羞恥心が危険な陶酔に変わっていく。もうどうなってもよかった。もっと猥褻にいやらしくいじめられたい。そう思い始めていた。
「美佳さん、濡れてるだろ…。」
孝一は憎らしいほどに美佳の心理を見透かしていた。閨を覗いていたせいなのかもしれない。
「これも脱がされたい?」
「…いや…ああ…」
いつしか美佳は鼻にかかった甘えるような声を漏らしていた。
「裸にされたいだろ?」
グッ、と指先が食い込んでくる。美佳にはもう抗う気力がなかった。小さくうなずく。
「じゃあ、そう言ってみて。」
「え…」
さすがに戸惑いがある。美佳は息を吸い込んだ。
「…脱がせて…。」
「よし、それじゃあ腰を浮かせて…。」
孝一の言葉に従うと、ショーツが降ろされた。濡れた女の部分が外気に触れて冷やりとした。
片足が持ち上げられ、ソファーの背もたれの上にかけられる。床に落ちたもう片方の足もさらに開かれた。美佳は大きく脚を広げ、一糸まとわぬ全裸を晒した姿にされているのだが、目が見えないと実感が湧いてこない。
「丸見えだよ、奥さん…。グショグショになってる…。」
「…ああ…」
卑猥な言葉が、美佳の妖しい陶酔を煽る。
「奥の方はピンク色だ。濡れて光ってる。」
(見ないで…!)
脚を閉じたいのに、どうしても力が入らない。こんな格好のまま何もされないのがたまらなく切ない。
「舐めてほしいだろ。」
「い…いや…」
孝一が両方の手の平を美佳の太腿の内側に押し当てた。そこが押し広げられる。
「美佳さんのアソコ、ヒクヒクしてる…」
「ああ…恥ずかしい…」
「すごくきれいだ。」
「おねがい…見ないで…」
「舐めてやるよ。」
「だめ…ああっ!」
孝一の舌の先端が美佳の濡れた肉蕾に触れた瞬間、美佳はたまらず大きな声を上げた。体中に激しい快感が走った。
「あっ…ああ…ああっ…」
意識が薄れていく。美佳は甘い声を漏らし続けた。孝一はそこを舐め、音を立てて吸った。美佳が腰を浮かすと、孝一は美佳の中に舌先を埋めた。
「あんっ…!」
体の奥から熱い蜜が溢れていく。それを孝一が舌ですくい取るようにしゃぶる。
「美佳さん、アナルも感じるんだよね…。」
孝一の舌が美佳のもう一つの穴の方に降りていった。
「あっ…そ…そこは…いやっ!」
美佳はとっさに体を固くする。孝一は舌の先でそこをチロチロと舐めた。
「フフフ…」
孝一が忍び笑いをしている。
「言っただろ、奥さんのことはよく知ってるって。旦那がしてること、全部見てるんだから…」
夫の健介が、美佳の菊門を舌で愛してくれることがある。初めはとても恥ずかしくていやだったのだけれど、だんだんにその奇妙な感覚と激しい羞恥に性感が高まるようになった。それを、この若い男は知っているのだ。
「あああっ!」
美佳は全身を弓なりにのけぞらせた。腰が震え、せり上がった。
「クク…こんなに感じちゃって…」
声が近づいて来る。次に何をさせられるのか、美佳にはわかっていた。唇に熱く硬いものが触れる。孝一の猛り狂った淫茎だった。立ち昇っているフェロモンが鼻をつく。
「さ、しゃぶって。」
「ん…」
美佳はためらうことなく、それにしゃぶりついていった。
「いっつもね、奥さんがそうやって旦那のオチンチンしゃぶってんの見ながらオレは自分の 奴をしごいてたんだ。でもさ、思ってたんだぜ、いつか奥さんにこいつをしゃぶらせてやる ってね。」
「ああ…言わないで…」
健介のものを唇で愛しているときのことが脳裏をかすめる。孝一の男根を舐めながら、どうしてもその形状を健介やマスターのものと比べてしまう。孝一のそれは美佳の知らない異様な形状をしていた。竿の部分は細いのに、先の方が大きく張り出しているのだ。
「うう…美佳さん…すごいよ…」
孝一は呻きながら、美佳の陰部を愛撫する手を休めなかった。乳房も揉みしだかれていた。
「あ…ん…う…」
美佳は舐めながら甘い吐息を漏らし続けていた。孝一の異様に張り出した先端部を咥えこんだ。断差になっている部分を舌で舐める。刺激されたそれはときどきビクッと跳ねるように反応する。
「んう…ん…」
今にも爆発しそうなほどに硬く張りつめた孝一の肉塊のゴツゴツとした表面が、美佳の舌先に触れ、その感触が疼きとなって下腹部に伝わっていく。淫裂の奥から熱い蜜が溢れてくるのがわかる。
「んんっ…!」
蜜壷に指が入ってきた。浮いた腰がブルブルと震えた。秘宮の内側の粘膜が刺激され、全身に突き通るような快感が襲ってくる。指の細さがもどかしい。
(ああ…私…)
美佳の口を犯しているこの奇怪な肉棒を挿し込まれたい。マスターと孝一の、強いフェロモンを嗅がされ、美佳の秘裂はもう充分すぎるほどに潤んでいる。クチュクチュと音を立てて孝一の指がせわしく抽送を繰り返し、快感と、物足りなさとが同時に増幅される。
「たまらなくなってきたろ…」
孝一の声に、美佳は屹立を口に含んだままうなずいた。孝一は美佳の口から男根を引き抜くと、美佳の上にのしかかった。蜜泉の入口に、砲身が突きつけられる。
「…どうしてほしい?」
孝一はそこで、動きを止めた。
(ああ…そんな…)
この期に及んで、孝一は、まだ美佳を焦らすつもりなのだ。
「…あ…ん…お…おねがい…」
美佳の下肢が妖しくうねる。
「いじわる…あ…しないで…あんっ…」
孝一の剛直の先端が、美佳の肉蕾をこすり上げる。
「言いなよ、美佳さん。どうしてほしい?」
「ああ…い…れて…」
「もう一度。」
「ああ…恥ずかしい…」
「ずっとこうしてるか?」
「いや…ああっ…ねえ…」
「じゃあ、言って。」
「あうっ…い…入れてっ…!」
「ククッ…」
孝一は笑い声を漏らして美佳の両足を抱えると、腰を突き出した。
「んあっ…!」
濡れそぼった膣肉は、たやすく孝一の剛直を受け入れた。孝一がしゃにむに腰を振り立てる。
深く貫かれる悦楽に美佳は、肢体を反らせて身震いした。
「あっ…あ…あんっ…」
孝一の若い性欲に責められ突き上げられるたびに、美佳は甘く泣くような声を上げた。孝一の動きに合わせるように、腰が動いてしまう。その腰が掴まれ、さらに深い部分に剛棒の先端が当たる。猛々しく張りだした部分に、美佳の中の粘膜が擦られている。豊かな双乳が揺れる。
「あああっ…だ…だめ…」
頭の中が白くなり、何度も意識が遠のきそうになる。
「美佳さん、気持ちいい?」
「あ…ん…気持ち…いいっ…!」
夢中で叫んでしまう。愛からかけ離れた淫らな行為に、目が眩むほどの快感があるのだ。厳しい母親に育てられてきた美佳の道徳感や倫理感は、もろくも吹き飛ばされてしまっている。
「また、させてくれる?」
「え…そ…それは…ああっ…」
いくらなんでも、そんなことはできない。美佳は人の妻なのだ。わずかに残った理性で、美佳は首を振った。
「こんなに感じるのに?」
孝一は息使いこそ荒かったが、むしろ楽しげな声だ。
「ああっ…おねがい…それ…だけは…許して…」
美佳はすすり泣くように喘ぎながら、哀願した。美佳を突き上げる孝一の動きが、さらに力強くなった。美佳の秘孔深くにある敏感な部分が、孝一の雁首に抉られる。
「ああんっ…」
美佳は我を忘れて声を上げた。
「ねえ、美佳さん、いいでしょ?またヤラせてくれるよね?」
孝一はしつこく訊ねる。絶頂の寸前まで昇っている美佳にはまさに拷問だった。肉欲に負けてしまう自分が口惜しいけれど、理性の限界が近づいている。
(お願い…イカせて…)
美佳はあろうことか、高く上げた両脚を孝一の腰に巻きつけた。孝一が律動を止めたのはその瞬間だった。
「あんっ…」
媚びるような甘えた声を漏らして、美佳は身悶えた。
「またヤラせるって、約束してくれたらイカせてやるよ。」
不良っぽい、ふざけているような口調で、孝一が言う。
「ああ…わかったわ…約束する…だから…」
「だめだよ、ちゃんと『またヤラせる』って言わなきゃ。」
「ま…また…させて…あげる…ああ…約束…するわ…」
「何をさせてくれるの?」
もう、何もかもわからなくなっていた。
(健ちゃん…ごめんなさい…でも…)
美佳は目隠しをされた闇の中で、湧き上がる官能の渦に抗がうことができなくなった。
「ああっ…ま…また…セッ…クス…させて…あげる…」
「へへへっ…よし…」
その美佳の言葉を待っていたかのように、孝一の律動が再開される。
「ん…ああっ…!」
美佳の細い裸身が反り返る。もどかしさから解き放たれた淫欲が、体じゅうを駆け巡った。けして口にしてはいけない言葉を言ってしまったことで背徳への呵責が新しい悦楽となり、最も深いところまで貫かれた肢体の中心部で燃えさかっている。
「ああっ…だめ…もう…わ…私…」
一気に絶頂の高みへと押し上げられる。目隠しをされた瞼の闇の中に、眩しい閃光が差し込み、体が浮き上がる。無重力の世界に投げ出されるような不安に、全身が緊張する。太腿が激しく痙攣し、膝も足首もまっすぐに伸びる。
「あっ…あ…あっ…イッ…ク…!」
呼吸が止まり、聴覚が失われる。全ての筋肉が限界まで張りつめ、それから急速に脱力へと向かう。その美佳の白い躰を、孝一の両腕が力強く抱きしめる。
五つほども歳下の男に抱きしめられ、しかし美佳は包まれる安堵感を感じてしまっていた。
「あ…あん…」
孝一が、またゆっくりと動き出す。美佳は陰夢の世界に呼び戻される。
「舌を出して…」
孝一が、妙に大人びた優しげな声音で命じる。
(ああ…怖いわ…)
これ以上の快楽、そしてこれ以上の恥辱を知ることがとても恐ろしい。だが、美佳は孝一に言われた通り、小さく舌を出した。
キスをされる。愛おしむような口づけだった。舌先が吸われる。その舌に絡むように、ざらっとした舌が入ってくる。
(えっ…?)
違和感があった。美佳の朦朧とした意識の中に、大きな不安が広がった。視覚を奪っていた黒い布が外された。
「あっ!」
部屋の中の明るさに目が慣れた瞬間に、美佳は悲鳴にも似た声を上げた。すぐ目の前に、マスターの顔があったのである。
「マ、マスター!」
部屋を出ていったはずのマスターの手には、ビデオカメラが握られていた。
「ふっふっ…そんなに気持ちいいか、美佳…。」
マスターがビデオカメラを構える。美佳は息を呑んだ。
「全部、撮らせてもらったよ。孝一にはまたセックスさせてやるんだって?」
「ああっ…ひ…ひどい…」
美佳はイヤイヤをするように激しく首を振った。
「さんざん感じてたくせに、それはないだろ?」
にたつきながら、マスターはレンズを美佳の下肢の方に向ける。孝一の剛棒が、美佳の媚肉を抜き差ししている。
「いやっ…撮らないで…」
目まいがした。気が遠くなる。固く目をつぶった。あまりの衝撃に、美佳の精神は耐えることができなかった。
う…ん…」
美佳はそのまま、深い闇の中に落ちていった。


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